2021年度 目路はるか教室

2Fコース

入院おめでとう

1985(昭和60) 年卒業杏林大学医学部産科婦人科学教室教授、総合周産期母子医療センター センター長

谷垣 伸治 氏(たにがき しんじ)

 今回、目路はるか教室のお話を頂いたとき、自分は体験しかないと思いました。

 “裾拡げずして、山高まらず”

 産科医不足と、言われて久しい。我が科は、なり手を探すのに汲々とするような、つまらない学問なのか。そんな訳はない。生まれてからどころか生まれる前から、女性の一生を応援する学問である。入院を心待ちにしている人がいる。入院を笑って出迎える医師がいる。そんな産婦人科のすばらしさ、楽しさを広めるためには、どうしたらいいか。自分は、上述を座右の銘とし、産婦人科の仲間を増やすことを野望としている。体験したら、当科を理解するはず。杏林大学では、大学1年時の早期体験、産科救命コースの主催、月一の院内シミュレーション講習を行い、当科の理解に努めてきた。また、病棟実習も体験型とし、本年からはVR(Virtual Reality)を導入した。母校での講演は、またとない機会である。産婦人科というと、思春期の男子中学生には恥ずかしく、前向きな対応は期待できないかもしれない。我々が躊躇していては、野望は達成できない。少々不安をもち当日を迎えた。

 当日はまず、分娩への立ち会い ― 助産が人間のみ必要なのは何故か?産科医は助産以外何をしているのか?我々の仕事を参加型講義で紹介した。反応はまずまずで、ほっとした。ついで、1台1億円以上の超音波検査装置3台を実際に操作し、胎児超音波検査を体験して頂いた。そして妊婦スーツを装着しての妊婦体験、妊婦モデルを使用しての妊婦健診と心音聴取体験と続けた。最後に先ほどの超音波検査で撮った超音波写真のコンテストを行い、優秀者に杏林大学グッズをお渡しして終了とした。

 本教室を受講する学生へは、当日までに以下の課題を伝えていました。

 1.ご家族に、自身の産まれたときの様子を聞いて下さい。

 2.帝王切開を知っていますか。帝王切開が、他の手術と大きく異なる点は何でしょうか。

 当日は、この点についての議論が十分できず心残りでしたが、かなりの学生が感想文に書いていたことを嬉しく思いました。自分は、小学校5年生への授業も行い、その学びの姿勢から産婦人科医であることの喜びを改めて感じていますが、今回の教室でも、中学生の心に秘めた思いと真の強さは、それをさらに感じることができました。

 幅広い見識があってこそ学問は先鋭化します。専門に限らず何でも興味をもつスケベ心をもった若手であって欲しく、またそのような人材を育てたい。これも上述した座右の銘からの、自分の希望です。本教室で自分は、最も弱い命を守るという産婦人科の素晴らしさと誇り、熱さを伝えることができたでしょうか。そして、それを支える異職種への感謝と尊重を感じて頂けたでしょうか。自分が在校時には、本教室はありませんでしたが、早くから多くの人と触れ合うことは、人を成長させると確信します。このような教育を行う母校の教育の素晴らしさと進み続ける姿勢に感服致しました。最後になりましたが、このような機会を与えて下さった委員の先輩方ならびに先生方、御協力下さいました超音波検査装置の業者の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。また、今回は、手伝いとして、杏林大学医学部3年生有志を参加させて頂きました。彼らにとってもまたとない成長の機会を賜りましたことを深謝いたします。本校の卒業生であることに改めて誇りを感じた一日でした。

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