2020年度 目路はるか教室

2020年度 目路はるか教室
2年全体講話

弁護士として歩んだ道を振り返って

1976(昭和51)年卒業弁護士(伊東・早稲本法律事務所)

伊東 卓 氏(いとう たかし)

一 普通部のころ

 私は普通部ではバレー部に入部していました。バレー部なのに野球が好きで、水泳部なのに野球が好きだったクラスメートの前田君とよくキャッチボールをしました。
 2年生の時、塾高野球部が夏の県大会を勝ち進み、準決勝で横浜と対戦して惜敗しました。私は、この新聞記事に釘付けとなり、塾高に進んだら甲子園に行けるかもしれないと思いました。そして、3年生になり、前田君に「塾高で一緒に野球部に入らないか。」と声をかけましたが、心配だったので前田君のお父さんに相談しました。実は、前田君のお父さんは、あの前田祐吉さん(大学野球部の名監督)だったのです。ご自宅に呼ばれ、前田さんからニッコリ笑って言われました。「やってみなさい。」この一言で、塾高で野球をやることになりました。

二 塾高のころ

 塾高進学と同時に、前田君と一緒に野球部に飛び込み、野球に明け暮れました。長く厳しい練習に耐え、やがて上級生になってレギュラーとなりクリーンアップを打ちました。自分たちのチームは決して弱くはなかったものの、強豪校には勝てませんでした。しかし、3年間野球をやりきった経験がその後の人生を支えることになりました。

三 大学のころ

 司法試験を目指して法学部法律学科に進学しましたが、試験勉強を始めたのは2年生の10月ころでした。そのまま、卒業後も就職せずに受験を続け、卒業3年目で合格しました。合格までに丸5年を要しましたが、当時はこれでも早く受かったほうでした。

四 司法試験の今と昔

 昔の司法試験の合格者は年間約450人で、合格率2%弱でした。これに対し、現在の合格者は年間約1500名で、合格率は約25〜30%です。
 以前はなかなか受からない試験だったので、受かりさえすれば誰でも食べて行けました。しかし、今は受かっても特別ではないので、それだけでは生き残れません。他の合格者にはない付加価値が必要です。もし、皆さんが司法試験を受けて法曹になりたいと考えるなら、どんな法曹にどんな過程を経てなるのかを考えておくべきだと思います。

五 法曹の仕事、弁護士の仕事とは

 法曹とは、裁判官・検察官・弁護士をいいます。すべての人に同じ法を適用して公正、公平に解決することを「法の支配」と言いますが、法の支配に貫かれた司法は公正・公平な社会を実現します。このため、法曹は信頼される職業とされています。
 弁護士の仕事の中心になるのは民事事件です。民事事件には、企業法務、契約や債権回収、労働法、知的財産法、倒産法、損害賠償法、家族法といったものがあります。
 弁護士は、依頼者が抱えている悩みに付き合うことになります。信頼される弁護士になるためには、法的知識や論理力、文章力の他に、洞察力、コミュニケーション力、共感性、危機対応力などが必要です。

六 慶應義塾から法曹になるということ

 慶應義塾出身の法曹は、以前は少数派でした(年間合格者が10〜20人)。しかし、今では立派な多数派です(年間合格者が120〜150人)。ただ、他大学に比べるとまだ先輩の層が薄いです。

七 弁護士会の仕事とは

 私は、弁護士としての仕事の他に弁護士会の仕事もして、弁護士会の会長や日弁連の副会長を経験しました。
 弁護士会の仕事とは、弁護士会に認められた「弁護士自治」を行うことです。弁護士自治とは、弁護士に対する監督は弁護士会が行い、監督官庁がないということです。弁護士自治は、国民の権利を守る上で大切な制度です。弁護士としての仕事以外に弁護士会の活動を行うことは、結構面倒くさく、お金にならないのでやりたがらない弁護士も多いです。でも、誰かがやらなければならないと思って取り組んできました。

 八 スポーツ法について

 私の取り扱っている分野にスポーツ法があります。不祥事の予防、スポーツ仲裁、ドーピング、スポーツ事故などを対象としています。実際に私が扱った事件の中に、Jリーグ我那覇選手ドーピング冤罪事件があります。これは、治療として点滴を行ったことがドーピング違反に問われたというものですが、これを覆すため、スイスのスポーツ仲裁裁判所の裁定を受けるという珍しい体験をしました。

 九 三田会の活動

 慶應義塾の卒業生は、学年、地域、職域ごとに三田会を組織しています。私は墨田区三田会に所属して、長い間地域の方と親しく交流を続けてきましたが、おかげで人生が豊かになったと思います。

 一〇 最後に

 人生色々なことがありますが、決して捨てたものではないと思います。真剣に取り組んでいれば、必ず誰かがその姿を見ています。そして、慶應義塾の仲間はあなたを見捨てません。だから、迷わず自分の道を進んでください。

 

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