2022年度 目路はるか教室

2022年度 目路はるか教室
3年全体講話

がんと闘うこと、がんと向き合うこと

1976(昭和51年)年卒業慶應義塾 常任理事 医学部外科学教授

北川 雄光 氏(きたがわ ゆうこう)

 

 「がん」という病気は若い普通部生諸君自身にはあまり馴染みがないかも知れませんが、ご家族のどなたかが、がんに罹った経験をしている諸君もいるはずです。と言うのも今や、日本人の二人に一人が生涯のうち一度はがんに罹る時代になり、死亡原因としては最も多い疾患になっています。がんはさまざまな外的要因によって遺伝子に傷がついて正常な細胞が変化して発生しますので、「内なる悪魔」とも言うべき病気です。日本のような高齢化社会では、長く生きている中でさまざまな外的要因に曝されてがんに罹る確率が高くなっていくわけです。しかし、がんは以前のように「不治の病」ではなくなりました。一旦がんに罹っても7−8割の方が完全に治る時代になったのです。私自身は外科医としてがんと闘ってきました。がんに侵された臓器や転移の可能性のある部位を全て取り除く外科手術は大変有効な治療法ですが、一方で大切な臓器の機能が失われてしまいます。今や、がんを治すだけでなくがんを根治した後に豊かで快適な人生を送ることを考えて、比較的早期のがんについては内視鏡治療や局所焼灼術などのなるべく負担が少ない治療法が開発されています。外科手術だけでなく、化学療法、放射線療法、免疫療法などを組み合わせて、従来は治癒することができなかった進行がんを治すこともできるようになりました。がんで命を落とさないためにはがんが発生しやすい要因をもたらす生活習慣についての知識を持ち、なるべくがんに罹りにくい生活を送ること、また一定の年齢に達したらしっかりと検診を受けて早期に発見することが大切です。また、がんになってしまっても決して諦めず、仕事や人生の楽しみを享受しながら治療をすることができるのです。がんに罹ること自体は、誰にでも訪れることであり、本人の罪ではありません。がんとしっかり向き合って、堂々と闘うことが重要です。それぞれの医療者がそれぞれの専門、立場で患者さん一人一人の人生と向き合って行うがん治療は、温かい絆と健康な時には見えなかった新しい希望や意欲、美しい景色を見せてくれます。この講話を通じて、どの時代でも世界のどこにいても絶対に価値を失うことのない「医療・医学」という分野の尊さと奥深さを普通部生諸君に伝えられたら幸いです。

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