2020年度 目路はるか教室
1Gコース
競争とは何か 〜独占禁止法と公正取引委員会〜
1990(平成2)年卒業弁護士(小林・藤堂法律特許事務所)
佐藤 水暁 氏(さとう みずあき)
今回、普通部を卒業してちょうど30年という節目の年に目路はるか教室の講師として普通部生の皆さんの前でお話しする機会をいただき、自分に何がお話しできるのかと考えた結果、「競争」についてお話しすることにしました。「競争」と聞くと、オリンピックでのメダル争いとか、プロスポーツでのレギュラー争いやタイトル争いなどを思い浮かべる人が多いと思います。参加してくれた普通部生の皆さんも、「競争」から連想するものとしては、徒競走や校内大会といったスポーツのイメージが強かったようです。
しかし、スポーツ以外でも、私たちのごく身近な日常でも「競争」が行われています。私たちが買い物をするときには、たくさんある選択肢の中からお店や商品を選んで買いますが、この選ぶという行為の裏では、企業が、自分のお店や商品を選んでもらうために様々な創意工夫を凝らし、経営努力をしています。それが「競争」です。「競争」があって初めて、私たちは、たくさんある選択肢の中から、安いものや、品質の良いものなど、自分の好きな商品を選ぶことができるのです。このような「競争」を促進するために定められた法律が独占禁止法であり、それを運用する国家機関が公正取引委員会です。
今回の目路はるか教室では、弁護士の立場から「競争」や独占禁止法の話をするだけではなく、独占禁止法を運用している公正取引委員会にもご協力をいただき、カルテルなどの独占禁止法違反事件が起きた際の関係者の事情聴取を再現した模擬事情聴取や証拠隠滅のために削除されたデジタル証拠の復元の実演を見学してもらいました。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために庁内の見学や参加型のシミュレーションゲームなどが実施できず、時間的にもゆっくりお話しすることができなかったことはとても残念でしたが、後日、「今日の講演でデジタルフォレンジックの技術に興味を持ちました」とか、「お話を聞いて競争の大切さが分かりました」とか、「今回の目路はるか教室で弁護士や公正取引委員会の仕事に興味を持ちました」とか、「理科レポ頑張ります」などと書かれた感想文を読んでとても嬉しく思いました。今回の目路はるか教室での講義や体験を通じて、何かを感じ取ってもらえたのであれば、これ以上の喜びはありません。
現在、普通部生の皆さんは、勉強やスポーツに無我夢中で取り組んでいることと思います。今回の講義でお話をした独占禁止法という法律は、市場経済において「競争」が行われることによって社会が有益に進歩するという考えに基づいて定められていますが、私は、学校生活における勉強やスポーツにおいて仲間たちと「競争」して切磋琢磨することも、人として大きく成長するためにとても大切ではないかと思っています。ただし、結果には必ずしもとらわれる必要はありません。目標に向かって創意工夫をしながら一所懸命取り組むことが何よりも大事なのだと思います。
普通部生の皆さんには、将来、それぞれが得意とする分野を見つけて様々な分野で活躍されることを期待し、そして陰ながら応援しています。
最後になりましたが、私も普通部生に戻った気持ちで、皆さんと楽しく過ごすことができました。ありがとうございました。