2019年度 目路はるか教室
2Fコース
呼吸器外科医という私の仕事について
昭和56(1981)年卒業東京歯科大学 市川総合病院
江口 圭介 氏(えぐち けいすけ)
令和元年11月9日、「目路はるか教室」で、普通部の一室をお借りして2年生24名にお話をさせていただきました。内容は、私の普通部時代から今日までの経緯と、現在従事している呼吸器外科医の仕事についてで、最後に簡単な実習として、皆さんに手術で実際に使用する機器を操作する体験をしていただきました。
私が普通部を卒業してからはや37年経過し医学教育も刷新されているので、個人的な昔話などは皆さんにはあまり参考にならないとも思いましたが、記憶に残る、普通部をはじめ学校の先生や周囲の人達の何気ない言葉を織り交ぜて紹介させていただきました。呼吸器外科では、肺癌という日本人の死亡原因の上位を占める深刻な疾患が対象となりますが、手術できる肺癌は全体の20%程度に過ぎません。全国的にも専門の医師が多いわけではないので認知度も低い分野ではありますが、それでも3時間超にわたり聴講してくれた後輩の皆さん、ありがとうございました。
講義では、手術の様子のビデオなども紹介いたしました。ショックを受けてしまった方がおられたら申し訳ありません。中学生にそのような内容をお見せするのは不適切だとお叱りをうけるかもしれません。手術の様子を見たり実際の器具をいじって「面白そうだ、自分もやってみたい。」と感じてくれる事は勿論良いと思いますが、「自分はちょっと無理だ。他のことをしよう。」と感じる事も良いと思います。また「こんな野蛮な治療の代わりに薬で治す方法を考えたい。」、「もう少し効率の良い道具を開発する仕事がしたい。」と感じてくれる人がいたらそれも素晴らしいと思います。
医学分野では、血や臓器にほとんど触れない分野もあります。もし志があるのならば手術が無理だからと言って諦めるというのはもったいない話ではあります。一方、医学部は定員も限られているため推薦を受ける事が難しいことは事実ですが、成績が良いから、両親が強く勧めるからという理由だけで医学部に進学するのは、当然のことながらお勧めできません。診断や治療の機器の開発には工学の力が必要です。画期的な機器の開発は一人の医師が一生かかっても到底及ばない数の患者さんを救うことなります。一見医学と関係ない金融や、政治、法律、芸術なども多くの病気の人を助ける事につながっていくかもしれません。各方面に優秀な人材を輩出できる事が普通部の強みだと思います。私自身も目標にまっすぐ進むような格好の良い学生生活は送れませんでしたが、将来の目標が明確な人は必ずしも多数派では無いように思えます。いろいろ悩みながら、周囲の人たちの言葉にも耳を傾けて、ゆっくりと自分にあった路を探り当ててください。皆さんが将来、様々な分野で活躍する事を期待しています。