2019年度 目路はるか教室

1Cコース

名所江戸百景NOW! 江戸の街から学ぶ現代東京の成り立ち

昭和52(1977)年卒業浮世写真家

鈴木 喜千也 氏(すずき きちや)

 2013年から浮世絵で描かれた風景の、同じ場所、季節、天候、時間帯で、同じ構図を写真で切り取り、アート作品に仕上げることをしています。2017年に初個展を開いたころから「浮世写真家 喜千也」を名乗り、創作、展示、販売、執筆、講演などアーティストとしての活動をしています。

 今回、目路はるか教室で1年生にお話ししたテーマは「名所江戸百景NOW!」とさせていただきました。約160年前の江戸の街と現代の東京の今昔比較から、「我々が暮らす今の東京の成り立ちを知ろう」という内容です。

 「名所江戸百景」は、安政3(1856)年から5(1858)年にかけて、最晩年の歌川広重が描いた、江戸名所絵の傑作シリーズです。鮮やかな色彩、大胆な構図は、ゴッホやモネに影響を与えたことで知られ、世界的に高い評価を得ています。広重が名所江戸百景を描き終えた安政5年は、福澤諭吉先生が、鉄砲洲の中津藩中屋敷で蘭学塾を開いた年でもあります。また、日本が米、蘭、露、英、仏と修好通商条約を調印した年であり、西洋文明/産業革命の産物が日本に広まる前夜です。約260年で育まれた日本の独自文化で築かれた「江戸」の最後の姿を描いた名所絵シリーズなのです。

 目路はるか教室では、教室内の授業だけではなく、作品や古地図を見ながら、現在の東京の街を歩いて体現してもらいました。コースは慶應義塾にゆかりのある築地鉄砲洲です。その時代背景や土地柄を知ることで、普通部1年生が慶應義塾や福澤先生への理解を深められたのではないかと思います。また、歩いた後には、慶應義塾大学・三田キャンパスで教室を借りて「まとめ」の授業をしました。

 歩いたコースは、月島駅(集合)→ 隅田川テラス → 佃島(佃)→ 中央大橋 → 霊岸島(新川)→ 新高橋 → 鉄砲洲通り(湊、明石町)→ 築地 → 三田(教室授業、解散)です。

 当日は晴天に恵まれ、気持ちよく歩く事ができました。歩いた距離は約4kmですが、広重が描いた場所で、作品や古地図を見たり、休憩したりしながらだったので、2時間半ほどかかりました。12時頃には教室に到着し、まとめの授業をして午後1時に解散しました。

 目路はるか教室で私が伝えたかったことをまとめると、以下の通りです。

・「我々は何処から来たの?」を知るには歴史を学ぶ必要がある。
  歴史を学ぶと、「我々は何処へ向かうの?」が見えてくる。

・江戸時代は遠く感じるが、幕末は意外と近い。(私の祖父の祖父は嘉永の生まれ。)
 人も街も慶應義塾も、過去からの繋がりがあることを忘れてはいけない。

・作品はこだわりを持って作りたい。良い作品は時間をかけてもやり遂げたい。

・作品の完成には友人たちの喜ぶ顔や応援が原動力になる。友達を大切にしたい。

 参加者からの事後の手紙を読むと、歴史への興味や、こだわりに対する同意などが書かれていて、伝えたかった事が伝わっていると感じ嬉しく思いました。目路はるか教室の授業を終え、これからの日本を支える慶應義塾の若き学生たちが成長していく上で、ほんの少しでも参考にしてもらえれば光栄です。

 

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