2018年度 目路はるか教室

2018年度 目路はるか教室
2年全体講話

「リスクとリターン」

昭和52(1977)年卒業株式会社 丸の内キャピタル

朝倉 陽保 氏(あさくら はるやす)

 プライベート・エクイティあるいは買収ファンドと称される仕事に携わり二十年になります。強力な直接金融を背景に米国で発達した手法で構造変化や支配権移転など高いリスクにさらされた事業を対象とし株主主導で金融と経営の知見を総動員して価値を創出するものです。買収ファンドの存在は欧米においては既に確立していますが、間接金融中心の日本ではその行動様式がなかなか受け入れられず、黎明期は「ハゲタカ」であると警戒され金融事情に明るい専門家も含め拒絶反応が起きたのは残念でした。

 近年、コーポレイト・ガバナンスの議論が深まり、株主が株主価値を求めて経営に影響を与えることを是とする考え方が受け入れられ、ファンドの役割がようやく理解されるようになりました。活動領域も徐々に拡大し、大企業の構造改革に加え中堅・中小企業の事業承継等での事例も増加しています。然しながら、日本における買収ファンドの経済的貢献度は諸外国に比べ圧倒的に小さいのが現状です。

 プライベート・エクイティの普及は我々実務者の悲願であり、その一助として講演をお引き受けすることも多くなりました。経済団体、中央官庁、金融機関、大企業等の幹部に加え、大学院生や大学生等その対象は幅広く、実務や事例の紹介を行うとともにファンドの社会的役割を理解してもらえるように努力しています。ところが金融知識を持つ大人が相手でもその本質が伝わらずもどかしい思いをすることが多々あります。

 なぜ伝わらないのかと冷静に振り返ると、リスクに対する認識に原因があるのではないかと感じています。プライベート・エクイティの価値、即ち利益の源泉は極限的なリスクと正面から向き合い、そのリスクをコントロールすることにありますが、リスクを回避し成果だけを追い求めてきた人々はリスクをとることがリターンの源泉になるという事実を素直に受け入れてくれません。

 今回、目路はるか教室で話をする機会を頂き、中学二年生を相手に何を伝えるべきか悩みましたが、最終的には「投資ファンドの世界」というタイトルでプライベート・エクイティの話をすることにしました。分かりやすい説明を心掛けましたが、重要な要素は捨象せず本質を伝えることを優先しました。ある意味リスクをとったわけですが、このリスク・テイクは大いに報われ、普通部生はこの難解な講義を一生懸命聴き、的を射た質問をし、素晴らしい感想文をしたためてくれました。

 何と言っても、多くの生徒がプライベート・エクイティについて関心を持ってくれたことが嬉しかった。今後、日本においても社会の様々な領域において買収ファンドとの接点ができることは間違いありません。ファンドの仕事をする人やファンドから資金調達をする経営者としてだけでなく、年金などを通じて資金を供給する個人として関わることもあるでしょう。彼らがどの分野に進むとしても、その存在を意識してほしいと考えています。

 また、リスクをとる意義を素直に、直感的に、正しく理解してくれた生徒が多いことにも驚きました。これまで向き合ってきたどの聴衆よりも普通部生の反応は鋭く、多くの生徒が自らの勉学、クラブ活動など実生活と結び付けてリスクとリターンの関係について考えてくれました。将来重要な判断を行うときに是非活用してもらいたいと願っています。

 グローバル化する金融市場と接しながら感じるのは、日本が一流であるためには相応のリスクをとらなければならないということです。そしてリスクをとりコントロールするためには、個々の人間がストレスに打ち勝つ強い精神と肉体を持ち、自らの責任と判断で行動することが求められます。私の話を聞いてくれた普通部生たちがリスクと向き合う力を身につけ、今後の人生において様々なことにチャレンジし、日本のリーダーとして活躍することを期待してやみません。

 

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