2018年度 目路はるか教室

1Jコース

日本の未来とヘルスケア産業

平成5(1993)年卒業大正製薬 株式会社 代表取締役副社長

上原 健 氏(うえはら けん)

 現在、日本は大きな転換期にあります。人口は現在のおよそ1億3000万人をピークにして2060年には8700万人まで減少が予測されています。また、65歳以上の人口比率は現在の27%から40%まで上昇します。このような変化がほぼ確実とされる中、国の仕組みやあり方を見直し、新しい持続可能な社会を作ることが求められる、そんな時代に普通部生は生きていくことになります。

 国民年金、国民皆保険制度をはじめとする社会保障の仕組みは、国民が安心して働ける環境を作るために導入され、日本の高度成長を支えることになりました。しかし導入当初の1961年に4兆円だった社会保障関連費用は、インフレや人口動態の変化に伴い2015年には120兆円、2040年には190兆円まで増加すると予想されます。こういった費用は現役世代の納める税金と保険料で賄われており、現役世代の人口が減少もあり大きな負担を強いることになります。

 講義では上記に代表される日本の未来、社会保障制度の仕組み、ヘルスケア産業が持続可能な社会の実現のために貢献できることなどについて説明をしました。続いて製薬会社やその仕事というものを働いている人のインタビュー映像なども踏まえながら理解してもらいました。最後には実際の商品を触ってもらいながら、薬に施された工夫や正しい薬の服用の仕方などについて学んでもらいました。

 今回の講義で皆さんに伝えたかったのは、今後訪れる社会環境の変化はとても大きく、過去の延長線上では解決できない課題が多く出現すること。そして、そのような時代に活躍できる人材になるために「未来を描く力」、「自分で学ぶ力」、「人を巻き込む力」を身に着けて欲しいということです。

「未来を描く力」

 今の延長に未来がないとしたら、どうなりたいかは自分で想像するしかありません。正解のない問いに対しても自分で決めて、前に進むしかありません。自分が追いかけたい未来や夢を描き、「やりたいことを正解にする」という気持ちでのぞめるよう、普段の活動においても自分と向き合って欲しいと思います。

「自分で学ぶ力」

 今の環境では先生や両親が色々なことを教え導いてくれます。しかし社会に出ると、できるようになるまで親切に教えてはくれません。特に新しいことにチャレンジをしなければならない時代においては、知らないことをゼロから、早く、自分の力で学べる人がチャンスを得ます。成長の過程においては、失敗を含めたすべての経験が大切な糧になります。ぜひ新しいこと、背伸びしなければできないことにチャレンジし、経験から学ぶことができる人になって欲しいと思います。

「人を巻き込む力」

 広い範囲に影響を与える事をしたいのであれば、多くの人を取り組みに巻き込む必要があります。そして多くの人を動かすためには、それに見合った「人としての魅力」が必要です。皆さんには自分の感情や感性を大切にし、オリジナリティや個性を伴った魅力ある人間になっていただきたいと思います。そのために、積極的に人と係わったり、色々な場に出向いてみたり、本を読んだりして自分の感性を磨いてください。

 また、自分の考えや感じていることを人に話せることもとても大切な力です。人と違う考えを持っていることを表現するのは勇気のいることで、訓練が必要です。しかし、変化する時代には人と違う考え方を提示できることがとても大きな価値になります。

 皆さんがこの講義を通じて、そしてこれからの慶應義塾での生活を通して、自分を作り上げていって欲しいと思います。そして自ら考え自ら動くことのできる人になっていただきたいと思います。結びにあたり、今回このような貴重な機会をくださった先生方、世話人の皆さま、また熱心に最後まで講義を聞いてくれた普通部生に感謝をしたいと思います。

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