2018年度 目路はるか教室

1Iコース

国際金融弁護士として思うこと

平成元(1989)年卒業ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業) 弁護士

松添 聖史 氏(まつぞえ せいじ)

 今回のお話をいただき、どんなテーマにするのか悩みました。普通部の皆さんからの質問を読み、自分のこれまでを振り返り、準備する中で、私自身も改めていろいろ見つめなおし気付くことができました。まずは、日程調整などご尽力いただきました世話役の江木先輩、連絡係をしてくださった天田先生、当日ご引率いただいた谷口先生、そして何より参加してくれた普通部生の皆さんに、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 私は外資系の法律事務所で金融の仕事をしている弁護士です。一般的にイメージされる裁判に関わることは殆どなく、ローンや社債、株式といった金融に関する契約書などの作成や、デリバティブなど複雑な取引や新しい金融サービスについてアドバイスするのが仕事です。日本のお客様だけでなく海外のお客様も多いので英語の仕事も多く、世界中の同僚と一緒に仕事をします。

 まずは、自己紹介も兼ねて普通部時代の思い出から弁護士になるまでを話しました。普通部バスケ部での厳しい練習のつらかった思い出、塾高に入り人のやらないことをやろうと航空部に入りグライダーの全国大会で優勝したこと、自分の力を試したいと司法試験を目指したこと、今思えば、その時々で目の前のことに一所懸命だっただけですが、それらの積み重ねが大事だったんではないかと思います。

 次に、私が働くベーカー&マッケンジーの紹介と、同僚のピエール・シアソンとフェイ・ジョウから英語と日本語で仕事の話をしてもらいました。フェイは中国とアメリカで働いた経験を、ピエールは日本で外国法弁護士として働くことを話してくれました。外国人と一緒に国際的な仕事をすることの空気感を感じてもらえたのではないかと思います。皆さんが社会に出る頃には、日本人と外国人は一層区別なく仕事をしていることでしょう。日本の外に出て仕事を始める方も多く出ると思います。グローバル化とは「多様化」であって、多様化を受け入れることがグローバル化の第一歩なんだと思います。

 一方、今日現在(2018年12月10日)、英国がEUから離脱するブレグジットの先行きは全くわかりません。米国トランプ大統領は米国第一主義を掲げ、中国との摩擦は過熱しています。人・モノ・カネ・情報の移動の自由化というグローバル化に対して、大きな疑問が投げかけられています。行き過ぎたグローバル化は貧富の差を拡大させるといった主張も理由がないわけではありません。今大きな問題になっているグローバル化の負の側面と、自由と規制のバランスについてお話をしました。

 自由と規制のバランスに絡めて、金融のお話しをしました。金融とは価値の移転であるとした上で、お金(貨幣)とは何かというところから、ビットコインなどの仮想通貨のお話をしました。規制されない自由に基づくビットコインですが、規制されない問題点もあります。自由と規制のバランスを考える上で非常に面白いものだと思います。

 その後、規制の在り方という意味で、法律とルールに関して、皆さんと考えました。法律家の仕事は、単純に法律を適用することではありません。法律には必ず目的があります。その目的を達成するために法律は適用されるのです。法律を適用して目的が達成できないのなら、その法律の適用に何か問題があるに違いありません。

 「法律やルールは破るためにある」と時々耳にします。法律家の立場からすると、これは正確ではないと思います。正しくは「何も考えず、やみくもに法律やルールだけに従うだけでは解決できない問題がある」ということだと思います。

 最後に質問です。1+1=の答えは何でしょうか?算数や数学なら2が答えです。そういうルールなんです。では、この1が空腹なピラニアだったらどうでしょう。空腹なピラニア2匹を一つの水槽に入れると結構な確率で共食いしてしまうそうです。答えは1でも正しいんじゃないですかね?

 

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