2020年度 目路はるか教室
3Hコース
裁判をもっと身近に
1990(平成2)年卒業東京地方裁判所判事
小島 清二 氏(こじま せいじ)
(はじめに)
母校の「目路はるか教室」で授業をする機会をいただき、紹介者である世話人、お手伝いいただいた普通部教員の皆様に、まずは感謝申し上げます。また、東京地方裁判所まで来ていただいた普通部3年生も、若い方の意見に触れることは本当に良い刺激になりました。あわせて御礼申し上げます。今年は、コロナ感染対策との関係もあり、学外授業を避けようとも考えたのですが、むしろこの状況下の裁判所の雰囲気も肌で感じていただければと考え、東京地方裁判所に来ていただき、実際の法廷において授業をさせていただきました。
(授業の内容)
授業では、簡単に民事裁判の仕組みを紹介し、その後に実際の民事裁判を傍聴していただきました。ほとんどの普通部生にとって、弁護士など法曹にならない限り、裁判所に来るのは人生で1回あるかどうかでしょう。自分や会社が関係する「裁判」であっても、自分が裁判所まで行くことは稀であると思います。もちろん、民事裁判は終了するまで数年の期間を要する事件も多く、傍聴していただいた裁判は、長い手続の中のごく一部ですので、法廷内での発言の意味を把握することも難しかったかと思います。テレビや映画のようにドラマチックではありませんが、多くの法曹関係者が一つの紛争に取り組んでいる現実の裁判を見ていただき、裁判所のみならず、多くの法曹関係者が紛争の解決という目的に向かって力を合わせ、真摯に取り組んでいる姿を見ていただけたかなと思っています。
ところで、人生で1回も裁判に関与しない普通部生であっても、これからの人生で、多種多様な意見を調整し、時には決断を迫られる機会には多く接することになると思います。対立する意見をしっかりと理解して、適正に調整し解決策を示すためには、①守るべき秘密に配慮しつつ、できる限り透明性が確保できる環境で、②公平な立場で活発な意見交換をしてもらいその紛争の本質を見つけ、③その紛争の本質を独善的な意見に偏らないよう複数名の合議をもって判断し、④その判断の理由をしっかりと説明する責任を果たすことが重要です。実際の裁判の手続も、そういった公平・公正な判断ができるような仕組みを多くの関係者が研究して創り出した成果の一つであり、この4つがしっかりと守られています。多様な意見に触れ、決断を迫られたときに、この授業を少しでも思い出していただけたら、難題を解決し得る判断にたどり着けるものだと思います。
(さいごに)
「今、何を勉強すればよいか。」との質問には、多くの友人を作り、些細な問題でもしっかりと意見交換してほしいと回答するようにしています。他者の意見が尊重できるようになるためには、自分の意見を持つことが重要なのですが、思えば、私自身、中学・高校・大学を通じて、多くの友人との意見交換を繰り返していく中で、ゆっくりと自分の意見が醸成されていったと感じているからです。皆様も、まずは身近な友人らに、些細な「裁判」を起こしてみてはいかがでしょうか。