2020年度 目路はるか教室

2Dコース

リスクとの付き合い方 〜確率と会計で経済をみよう〜

1984(昭和59)年卒業早稲田大学 教育・総合科学学術院教授

熊谷 善彰 氏(くまがい よしあき)

 卒業してから三十数年経ち、普通部生の皆さんにお話しする機会を頂戴するとは夢にも思いませんでした。ご推薦頂いた世話人の阪埜先生、事前のご調整を頂いた鎌田先生、当日ご案内頂いた山﨑先生はじめ普通部の先生方、そして授業に参加して頂いた生徒の皆さんに心より感謝いたします。

 授業では、最初に自己紹介を兼ねて事前に頂いたご質問に答えながら、普通部入学から現在までを簡単に振り返りました。労作展で選んだトポロジーが大学での専攻分野につながったこと、高校ESSでのディベートのこと、大学の学部選択のことなどお話しました。現在、教育学部では金融分野を担当し、中高生向けの金融投資教育を研究するプロジェクトにも関わっており、今回はその中から確率と会計を使った部分を紹介しました。

 まず、皆さんのリスクに対する姿勢について確率を使って考えました。株式などのリスクのある資産を念頭に置いて将来の価値が上がるか下がるかに単純化した例を提示し、それぞれいくらであれば買うかを答えて頂きました。それぞれの事態の起こる確率にそのときの価値を掛けて合計した値が期待値ですが、この期待値を基準にして、それよりも低い価格で買おうとすればリスク回避的、高い価格で買おうとするとリスク愛好的と各自のリスクに対する姿勢が分かります。参加された皆さんの多くがリスク回避的であり、将来の価値の振れ幅、すなわちリスクが大きいほど、価格が低くなければ買わないこと、さらにリスク回避の度合いは人それぞれ異なることを確認しました。

 一方、極めて小さな確率で巨額の当選金が得られるくじに対しては、期待値より高い金額でも買おうという人が半数を超え、株式・債券をモデルにした例のときよりもリスク愛好的になる傾向が見られました。同じ内容を大学生にアンケートした結果もご覧に入れましたが普通部生の皆さんとほぼ同じ結果でした。実際、くじは当選金の期待値よりも高い価格で販売されていて、運営費と当選金を引いた上で公益事業等に充てる収益金が生じるのですから購入者は平均的には損をしているわけです。これに対して株式・債券などはリスクを嫌う投資家が取引する中で価格が決まるため、リスクが大きいものほど価格が下がって割安になり、収益率の期待値は高く、つまりハイリスク・ハイリターンになります。もちろん投資する側にとってはローリスク・ハイリターンが理想的ですが、ローリスクの投資があれば人気が出て価格が上がり、ローリターンになってしまうはずで、ローリスク・ハイリターンと称する投資は疑ってかかるべきです。(しかし、大学生もしばしば投資詐欺の被害にあっています。)

 最後に、株式や社債の保有者、そして銀行が企業に資金を供給すると同時にリスクも引き受けていることを企業の財務諸表を通して確認しました。ギャンブルはあえてリスクを作り出して娯楽としているのに対して、投資は経済活動に伴って生じるリスクを引き受け、企業が研究・開発を行い、新しい商品やサービスを生み出す手助けをしています。財務諸表でお金の流れを確認すると株主が残り物をもらう立場ゆえに債権者より大きなリスクを引き受けていることも分かります。また、社会全体のお金の流れをみるための資金循環統計も紹介しました。

 経済を分析する上では今回取り上げた確率などの数学や会計の知識は不可欠です。特に数学はそれ自身美しく興味深いものですが、自然現象はもちろん、社会現象を把握する上でも役に立つ世界共通言語でもあります。計算が得意ではなくても様々な現象を分析する道具として数学を学ぶことで将来の選択肢が広がります。

 普通部生の皆さんは、中高六年間の自由な時間を活かし、是非いろいろなことに興味を持ち、挑戦してみてください。

 

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