2019年度 目路はるか教室

2019年度 目路はるか教室
3年全体講話

個性とオリジナリティー 〜出る杭は伸ばし合おう〜

昭和50(1975)年卒業株式会社 サテライト

河森 正治 氏(かわもり しょうじ)

 皆さんから寄せられた感想文を読んで胸が熱くなりました。何か少しでも心に届いていたら嬉しいです。

 つい半年前まで、私は〝好きな事〟を仕事にしてやってきたつもりでしたが、どうやら単に好きな事ではなく、〝得意なやり方〟で仕事していたのだと気づきました。好きだけれどプロになれない人達を沢山見てきたからです。

 私の好きな事は、宇宙開発でしたが、数学や英語はあまり得意ではなかったので、NASAに行く夢はかないませんでした。けれど、私は変形メカやオリジナルデザインを創る、その〝デザインする〟という〝やり方〟が得意でした。それは、単にカタチを創るだけではなく、目に見えない物事、例えば、目的、コンセプト、感情、欲望、テーマ、感動などに具体性を与える手法と言えます。物語、世界観、演出表現まで、私はすべて〝デザイン〟という自分の得意なやり方で色々な仕事をしてきた訳です。そして、好きなことは自分の為だけれど、得意なやり方はみんなの為にもなります。

 得意なやり方は一人ひとり異なります。利点や長所を見つけて、そこをさらに磨きをかけるのが得意な人もいれば、欠点や問題点を見つけて直すのが得意な人もいる。直観的に閃いて行動する人もいれば、何事もデータを集めて分析する人もいる。じっくり考え準備した後行動する人、思いついたら即行動、少し失敗してもどんどん進める人。どんどん進める人にとっては、じっくり考える人はぐずぐずしているように見え、慎重に進める人にとっては、すぐに飛び出す人は危なっかしく見える事でしょう。このように得意な方法が違うと、お互いに対してやり方が間違っていると思い、怒ったり、非難してしまうのかもしれません。ですから一人ひとりが自分の得意なやり方を自覚して、互いの得意が違うことを認められた時、多様な個性を尊重し、世界はもっと素敵な場所になると思います。

 出る杭は打たれる、空気を読めと言われる日本社会では少し勇気がいることかもしれませんが、この普通部生であれば間違いなく互いに出る杭を伸ばし合い尊重し合う仲間でいられると、皆さんの感想を読んで確信しています。

 また、弱点については、苦手なやり方でどんなに頑張っても大した成果は望めないですが、自分の得意なやり方・強みを知っていれば、その強みをいくつか組み合わせることで、弱点を克服することも出来るでしょう。苦手な事は無理に頑張るのではなく、得意なやり方を工夫して対処出来れば良いと思います。得意なやり方の見つけ方は、今までで一番うまくいった時や、楽しくて、周りの人も喜んでくれたときのやり方を想い出してください。また、ご両親や親しい人から何度注意されても直らない自分の癖。その癖の中にあなたの得意な行動が潜んでいる可能性があります。貴方はご両親や親しい人とは違う得意を持っていて、自分の得意なやり方が自分のダメな点だと思いこまされているだけかもしれないのです。

 オリジナリティーを生み出す、私流の多次元的発想法について。まずは、視点・モノの見方を変えるやり方。例えば木登りをして上から見下ろしたり下から見上げたり、普段とは違う視点でモノを見る。例えばセロテープの台やペットボトルを逆さにしたりして、逆転の発想を生みやすくする訓練が出来ます。次元を変える、の例でいうと、私が創ったマクロスでは、戦争の解決を武器や武力ではなく、文化や歌の力により解決します。立脚点を変える、については少し難しいですが、普段の立場や考え方から一度外に抜け出し、相手の立場に入り込んでみる、そんな事が出来たとき、初めて本当に相手を尊重することが出来るでしょう。

 オリジナリティーの根幹は、自分で体験することです。ネットで何でも検索できる時代ですが、そこで分かるものは人間の持つ感覚のごく一部です。実際に自分で体験し得意なやり方で表現する。そんな貴方だけの独自の生き方で自由に歩んでいきましょう。

 

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