2019年度 目路はるか教室

3Fコース

好きなことを仕事にする

昭和57(1982)年卒業東宝東和 株式会社

松岡 宏泰 氏(まつおか ひろやす)

 成城学園前駅から少し離れた撮影所に、普段は見かけない学生服姿の少年達が多数集まっていました。事前の資料から映画好きの普通部生が多い事を知り、彼達がこの場所を去る時に、映画に対してどんな気持ちを抱くのか、とても興味深く感じた次第です。

 写真撮影の後、まずは撮影所内の会議室で私が映画ビジネスについて少しだけ説明をしました。ビジネスそのものについての知識が不足する中学生に、「映画ビジネスとは」という事を説明しても、中々理解して貰えないだろうなぁと思いつつ、映画は製作・配給・興行という分野に分かれている等、基礎的な話をしたつもりです。

 その後、撮影所スタッフに手伝って貰ってスタジオ見学ツアーが開始されました。特殊メイク工房、大道具や衣装の倉庫、撮影用ステージ、撮影中の無事を祈願する神社、編集や音響調整作業を行うポストプロダクションセンターなどを廻り、映画製作の工程をほぼ網羅しました。撮影中の現場には立ち会えませんでしたが、映画製作の雰囲気は掴んで貰ったと思います。最後に試写室で、監督や製作者が意図する形に一番近い環境(映写/音響)で幾つかの映画のシーンを観て貰いました。「映画館で映画を観る」ということは、製作者の方々の「自分が手掛けた作品は、こういう環境で観て欲しい」という願望に沿った形でお客様に観ていただくことだと思っています。だからこそ、映画人達は映画館で映画を観ていただくことを重要視しています。生徒たちの感想文に「映画館で観ること」について触れた文章を幾つも見つけ、とても嬉しい気持ちになりました。

 ツアー後、会議室に戻って「好きなことを仕事に選ぶ」について話をしました。彼達が仕事を選ぶのはまだまだ先のことですから、選んだテーマが正しかったかどうかは分かりません。自分が普通部三年生の時の公民の授業で、伊集院謙信先生から「君たちが大学生になる頃には、経済のサイクルは最悪になっているから就職は大変だよ」と言われて落ち込んだことを思い出しました。実際は我々の大学卒業時期はバブルまっただ中で、先生の予想は数年ずれた訳ですが、将来の選択について話す私の言葉は、生徒達にどのように受け止められたのでしょうか。

 私の話のキーワードだった「判断とは何かを犠牲にすること」「絶対ということはなかなか無い」「自分のことは自分で責任を取る」に敏感に反応してくれた生徒が多かった事に、少なからず安堵しています。また、「普通部での落ちこぼれ」「国際派を目指す」といったエピソードにも興味を持ってくれた様子は、感想文からも汲み取れました。数時間だけの接点でしたが、少しでも彼達の人生に影響を与えることが出来たのなら光栄です。これから彼達が数限りない選択をして、失敗をして、自分の描く理想に向かって進んでいく事に期待しています。

 素晴らしい機会を与えてくださり、有難うございました。

 

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