労作展

2023年度労作展 受賞作品

数学科

折って、切って、その先へ

3年I.H.君

 僕は小さい頃から無類の算数パズル好きだ。 中学一年生、 初めての労作展のテーマをあれこれと探す中で 「どんな形でも無限に作れる。 エリックは証明した」 という記事に出会い、 自分でも挑みたい!と思ったことが3年間の研究の始まりになった。 1枚の紙を何回も折り畳み、 はさみを1回だけ入れる。 紙を広げると、 様々な形や模様が生まれる。 偶発的な造形を楽しむのではなく、 切り出したい形に対して意図して行うには、 角の二等分線や垂線を組み合わせて折る必要がある。 カナダの数学者エリック・ディメインによれば、 どれだけ複雑な形でも多角形は最終的に三角形と四角形に分割でき、 折り目を追加することで、 三角形と四角形が一直線上に並ぶように折り畳むことができる、 という。
 当初の計画は一刀切り理論を学んで、 「KEIO」 という字形を多角形に見立てて、 1年目は1文字ずつ2年目で2文字同時に、 3年目で4文字同時に切り出しをしようという単純なものだった。 やっていることは折り紙遊びに見えても、 計算幾何学やグラフ理論が登場してくる文献を読みといていくのは非常に難しかった。 一方で、 自分のオリジナルの一刀切り設計図作りは、 段々レベルアップしていくのがまさにパズルを解くように楽しく、 夢中になって制作した過程を振り返ることで数理の理解が深まっていくという良い循環が生まれた。 設計図もより緻密に正確にと追求したくなり、 手書きから AutoCAD へと扱えるツールも進化した。 こうして順調に2年生までに当初の計画が完成してしまい、 今の自分ならかなり複雑な図形でも切り出す事ができるという自信と、 一刀切り問題の証明に実感が伴ったと同時に、 3年目の研究テーマについて途方にくれることになった。
 研究を発展していく方向性のアイデアが浮かばず、 折り紙数学をキーワードにありとあらゆる記事を読み漁った。 折り紙をもとに工業、 宇宙工学から医療に至るまで革新的な研究が沢山行われていることを知り、 この分野への興味が膨らんでいった。 それと同時に少し勇気を振り絞って色々な方の意見も聞きに行った。 普通部数学科の先生方をはじめ、 あちこちで相談している内に、 イギリスの大学院数学科で研究をされている方やSFCで情報工学の研究をされている方にまで行き着き、 これまでの研究紹介と展開候補をお話させて頂いた。 僕はすごく社交的なわけではないし、 初対面の目上の方々に中学生の自由研究の相談に乗ってもらうなんて申し訳ない気がして縮こまっていたが、 そんな心配は無用だった。 どの方も専門的で率直な意見を下さり、 ここで自分は今までの 「興味の追求」 から 「自分の研究が世の中に何らかの意義を持つように」 という視点変換をすることができた。 そこからは全くの初心者だったPythonプログラミングを一から学んで、 一刀切りを広めるツール作りに邁進する夏を送ることになった。 苦手意識のあったプログラミングもやり始めてみたら面白く、 プログラミングデザインを考えることや、 生成AIを活用してエラー修正する方法など、 これからの時代に必要なスキルを学ぶ良い機会になった。 但し、 手では簡単に設計できる折り図がプログラムでは上手く作れない。 思い返せばエリックも、 難しいのは、 図形を並べて折る順番を見つけ出し、 それをどんな形にも応用できるようにするためのアルゴリズムを作り出すことだと記事で言っていた。 アルゴリズムとは計算する手順のことで、 この手順を間違えれば解けないこともあるし、 プログラムを終了するのに膨大な時間がかかってしまうこともある。 条件設定を試行錯誤していく中で、 証明理論の難解だった部分にも繋がっていき、 証明アルゴリズムを理解するには結果的にプログラムを自分で書いてみることが大事だったと知った。 3年目のテーマ設定は展開と追求を同時にかなえてくれていたのだ。
 3年間連続受賞することが出来てとても嬉しい。 しかも今年は特別展示だ。 そして同じくらい、 研究を通して得た人との繋がり、 新しい知識やスキルも嬉しい。 労作展は真摯に取り組めば取り組んだだけ新しい世界を見せてくれる。 僕らにとって飛躍の機会になるのだ。