労作展

2022年度労作展 受賞作品

数学科

4次の魔方陣における連結型の研究

3年O.K君

 「巨人の肩の上に立つ」という言葉がある。先人達の積み重ねた業績を踏まえ、何か新たな発見を目指すという意味だ。再現性の高い数学という科目においては、既に示されていることを再確認するのではなく、その事実を踏まえた上で前人未到の更なる問いを解決することの方が重要だと考える。しかし、オリジナリティだけに固執して発展性が全くない発見をしても、価値ある研究にはならない。オリジナリティと発展性を両立することで初めて、より本質的な事実へと連鎖していくからだ。私が魔方陣の研究に取り組むにあたり、バックボーンとして常にこの言葉があった。
 今年の五月。長い間、良い研究テーマを探していた。また、テーマを決めるにあたり、これまでの労作展で培ったプログラミングのスキルが活かせることと、私の好きな「数の性質」に関する問題であることも条件として考えていた。ある日、魔方陣という問題を思いついた。魔方陣とは、列、行、対角線のいずれの和を見ても等しくなるように相異なる自然数を配置した正方形のことだ。単純な計算しか行わないためプログラムに向いており、私が小学二年性の時にも研究をしていたほど、興味のある問題だった。さらに深く調べ、連結型という概念を見つけた。n×n の魔方陣における連結型とは、和が n2 + 1になる二数を結んだ直線を全て引いて現れる模様のことだ。これは、ある本にのみ詳しく記載されていて、インターネットや海外の論文、七十年前の古本を調べてもほとんど何も研究がされていなかった。このテーマなら自分が貢献する余地があると思い、その性質や規則性を研究することにした。
 研究の方法として、まずは低い次数におけるプログラムから始め、魔方陣への理解を深めた。その後は次数を上げ、一次関数を用いて連結型の描画を行った。これらの作業に、想像を絶する時間と労力を要した。論理が複雑だったため、食事を取るだけでコードの内容が分からなくなったりもした。八月下旬、プログラミングを乗り越え、いよいよ規則性の証明に取り掛かった。プログラムによる出力をもとに、そこに至るまでの代数的な証明を来る日も来る日も考えた。試行錯誤の末、連結型Kにおける該当方陣が八個であることや、各連結型になる必要十分条件の提示、各連結型の該当方陣は必ず偶数個であることなど、計十八の命題を証明できた。
 労作展当日。全力を出し切ったと自負していたし、これで受賞できなくても悔いはないと思っていた。しかし、やっぱり賞は欲しかった。誰よりも早く結果を知りたいと思い、土曜日の朝一番に普通部へ行った。自分の論文へ目を落とすとそこには、「賞」 と書かれたひとひらの紙があった。裏返すと、赤色のペンマーク。肩の力が抜けて、床へと座り込んでしまった。達成感、安堵、様々な感情が交錯して、涙が出た。
 三年連続で特別展示作品に選出して頂き、大変嬉しく思っている。決して読みやすくはない論文だったと思うが、丁寧に読んでくださった数学科の先生方には感謝の気持ちでいっぱいだ。またこの研究を通して、まだ誰も追求していない問題に足を踏み入れ、試行錯誤を繰り返す楽しさを知った。
 証明したこと一つ一つは地味で小さなことかも知れないが、これらの発見が魔方陣全体で見ても確かに価値のあることだと信じている。この研究によって、巨人の肩を少しでも高くすることができたなら、これ以上の幸せは他にない。