労作展

2021年度労作展 受賞作品

数学科

テンパズルの研究Ⅱ

2年O.K君

 労作展は普通部で最も大きな行事である。 普通部生の労作展への情熱には、 並々ならぬものがある。 その迫力を知っていたからこそ、 去年の僕は秀麗たる作品群と同じ空間にあっても恥ずかしくない研究をしなければならないと、 夏中研究に没頭した。 その結果、 特別展示作品に選出して頂いた。 とても嬉しかったが、 同時に次の年へのプレッシャーも感じた。 その中で研究を続け、 今年も特別展示作品に選出して頂くことができた。
 研究テーマは二年続けて、 「テンパズル」 だった。 テンパズルとは非負の整数四つに対して四則演算を行い、 10を作る遊びのことだ。 日本でも広く知られているが、 その知名度に対してさほど研究がなされていない。 そこで、 誰も見つけていない規則性の発見を目指すことにした。 規則性を発見するためには全通り解法を手に入れる必要がある。 去年は Python というプログラミング言語を用いて、 このプログラムを書いた。 今年はまず、 去年書いたプログラムの改良から始めた。 非効率的な設計があったことに気づいたためだ。 この工程が想像以上に時間がかかった。 関数の統一と変数の数を減らせばよいと思っていたのだが、 正規表現という不要なカッコを排除する部分に欠陥があることに気づき、 これを修正するだけで三千九百行のコードを書いた。 次に、 いよいよ規則性の発見と証明に取りかかった。 特定の条件を満たす解法のみに絞り込み、 その中で規則性がないかを探した。 これが地味な作業で、 それぞれの規則性に関連性がないために、 最初のうちは殆ど何も発見できなかった。
 しかし最終的に二十個の規則性を発見し、 それぞれに代数的な証明を行うことができた。 その中でも最も重要だと思われるのが、 「1から9の異なる四つの整数の組合せ全てに2、 3、 4、 10は解を持ち、 その他に全てに解を持つ自然数は存在しない」 というものだ。
 この規則性を発見したときに一つの仮説にたどり着いた。 0を使う場合には解が存在しないケースがあるので、 そもそものテンパズルのルールは 「1から9までの異なる四つの数を使う」 というものだったのではないかという仮説である。 このルールなら、 全ての組合せで10を作ることができ、 パズルとしての完成度が高い。 もちろん真実を確かめることはできないが、 この規則性と仮説にたどり着いたときには、 数学というあまりにも美しい世界の神秘に心が震えた。
 その他にも、 最も10を作る方法の多い組合せが2、 3、 4、 8であることや、 最も多く使われる演算が減法であること、 最も多く使われる数字が2であることなども発見した。 これらの発見や規則性を提出数時間前にレポート用紙に書いていた時は、 手の痛みと眠気で何も考えられず、 無心で文字を並べていた。 結果的に五万字を超えるレポートを完成させることができ、 深い達成感に包まれながら眠りについた。
 労作展当日。 どれだけ知的好奇心が満たされてもやはり賞の有無は気になるもので、 土曜日の朝一番に教室へ向かった。 「賞」 とゴシック体で書かれた紙がついていることを確認した。 嬉しかった。 即座に紙を裏返すと、 赤色のペンマーク。 もう言葉が出なかった。 あまりの驚きに、 そのまま教室の床に倒れてしまった。
 テンパズルを通して、 本質を追求することだけを求めて研究に没頭することの楽しさを知った。 普段生活していたら、 これほど一つのことをとことん突き詰める機会はないと思う。 それが可能である労作展は本当に素晴らしい行事だと思うし、 九十年以上の歴史があるのに納得がいく。 今年の労作展は僕にとって何事にも代えられない貴重な経験となった。