労作展

2019年度労作展 受賞作品

英語科

一つのことに全力で向き合った労作展

2年Y.I.君

 僕の初めての労作展は記念すべき九〇回目の年であった。美術など芸術的分野が得意ではない僕は何科を選ぶか悩んだ末、小学校時代から好きであった英語科の作品に取り組むことを決めた。僕が入学する年、二〇一八年の春にイギリスの物理学者のスティーヴン・ホーキング博士が七十六歳でこの世を去ったことが新聞に報じられていた。ブラックホールの特異点定理を発表したことで有名な博士はまた『車椅子の天才物理学者』ということでも知られている。ホーキング博士は筋萎縮性側索硬化症という難病に侵されていたのだ。車イスに乗っている、博士が目のまばたきによって、講演している姿を以前テレビ番組で見たことがあった。当時、その姿がとても印象に残ったことを思い出した。そして、これがきっかけとなり、昨年はホーキング博士の自伝を和訳することにした。

 ホーキング博士の本は相対性理論やブラックホールについてのものがほとんどで、そこには物理の専門用語がとても多く、単語も難しかったので、自伝的小説を選ぶことにした。この本は神童と呼ばれた青年が、ある日突然の病に侵されながらも、様々な困難や挫折を乗り越え、偉大な理論を発見するという偉人の伝記的自伝である。読み進めていくにつれ、天才と呼ばれる博士の今まで知らなかった人間味あふれるエピソードにさらに興味がわいた。和訳の他に力を入れたところは、英文の構文解析である。これに着手できたのは、きれいなセンテンスの本だったことが大きく、文法の勉強にも非常に役立ち、一石二鳥であった。また、物理学的要素もたくさん出てくるので、必然的にその分野についても調べて行かなければならなかった。おかげで僕はブラックホールについて詳しく知ることにもなった。

 そして二〇一九年の労作展、今回は一度賞を頂いたプレッシャーもあり、なかなか題材が決まらなかった。そんな時、留学していた大学生の知人から『スラムドッグ・ミリオネア』という本をもらった。この小説は何年か前に海外で大ヒットし、アカデミー賞を何部門も受賞した映画の原作で、学生の間でもとても人気だったと教えてくれた。自分も読んでみたいと思い、今回はこの本の英文和訳をすることにした。

 前回よりも英語レベルが高いこともあって、センテンスがとても長いものが多く、和訳するのに大変な時間がかかった。それでも、一日の目標ページ数は妥協せず、必ずこなすように心がけた。今回はわからない単語や熟語に対してただ意味を調べるだけではなく、その使い方の確認の意味も含めて、それぞれ英語構文を作っていった。こうすることによって、英単語の持つ様々な意味や、同じ意味でも場面や状況によって、使用単語が変わってくる感じもつかむことが出来た。

 そして、今回は小説というジャンルを題材に選んだので、校正にも力を入れた。はじめの下書きに二度校正を入れた。はじめは英文を定形通りにきちんと訳した。二度目は、文章を少し読みやすく、日常の生活の風景も取り入れながら多少意訳した。この作業は本当に投げ出したくなるほど、大変だった。集中してスイスイ進んでいる時は良いが、センテンスのつなぎ方を理解出来ない時は本当にイライラしたし、心も折れそうになった。しかし、とにかく最後まで終わらせるという自分自身との約束と、昨年の自分に負けたくないという強い気持ちで校正し続けた。この作業の後に清書をして、何とか最後の完成版まで製作することが出来た。納得のいく和訳になったことも満足だった。

 結果として、普通部に入学して労作展に出会い、僕はそこに全力で取り組むことになったが、そのことにとても感謝している。今まで、これほど何かに夢中になって取り組んだことがなかった僕を変えてくれたからだ。今から、来年の労作展が楽しみである。