労作展

2019年度 受賞作品

技術家庭科

バロックの華~美しきスピネットを作る~

3年N.T.君

 僕は、普通部生最後の労作展にすべてをかけた。スピネット(小型チェンバロ)という楽器の製作に挑戦したのだ。

 二年生の労作展に古楽器の、プサルテリウムを製作し、お世話になったKさんの工房に、三年生の労作展には、当初の目標だったチェンバロ製作にチャレンジしてみたいと頼んだ。Kさんは、

 「N君の気持ちが変わらないなら、応援するけれど、僕たちプロが毎日休まず作っても、四か月はかかるんだよ。本気で一から作るなら、学校をやめて弟子入りしてもらわなくちゃ。」

 と、少し冗談ぽく言った。とても大変そうだが、何とかやってみたいと思った。相談の結果、約一年という、限りある時間の中で楽器を完成させるため、やむを得ずキットを使うという選択をした。勿論、一から作りたかったが、完成することは時間的に難しく、音が出ない未完成なものになってしまう。僕は、音を出す、ということを目標にした。楽器は、音が出て、初めて楽器として成立するからだ。

 みんな、キットを使ったと聞けば「なんだ、誰でもできるじゃん」と思う。しかし、単なるプラモデルとは異なり、一つとしてそのまま使える部品はない。削り直し、楽器を長く使えるように工夫し、時には作り直し、こうした苦労の末、できるのである。

 日曜日や学校が休みの時、時間があれば工房に通い続けた。毎回、Kさんから新しい技術を教えてもらった。

 そもそも、チェンバロに挑戦しようと思ったのは、デパートに飾ってあったKさんのルドゥーテの絵の美しいチェンバロに一目惚れしたからだ。娘さんやお弟子さんからもたくさんの事を教えてもらい、僕もルドゥーテの図譜を見ながら、バラの絵を、天板に描いた。楽器自体にもグラスグリーン色を塗り、金のラインを入れて、一台の楽器を完成させることができた。

 僕は今回、沢山のことを学んだ。楽器制作の技術、木工の技術、そして何よりも、「職人魂」だ。工房でKさんたちプロの仕事ぶりを見ることができて、一つのものを作り上げるということが、どれだけの強い思い入れと、こだわりを持って行われ、集中力や根気を必要とするものか、わかった気がする。

 労作展の講評の時、G先生は一例として、僕の作品を取り上げてくれた。そこには、僕が評価してほしかった点と、心配していた点が、明確に示されていた。今回の作品には、沢山の人の協力と、キットという、労作展にはふさわしくないワードが含まれている。これをはたして労作といえるのか。それでも、先生は僕に賞をくださった。理由は、普段の授業では絶対に学ぶことができない、「モノづくりの心」を学ぶことができたから、とのことだ。作品自体、いくら長く使えるとはいえ、寿命はある。しかし、「モノづくりの心」は僕の中に一生残るものであり、人生を豊かにしてくれる。先生はそんな「心」に賞を付けてくれた。

 労作展期間中、担任のN先生が、僕の楽器を、教室の真ん中に置いてくれた。皆が僕の作品を評価し、元担任のS先生も気に入ってくれて、毎日演奏していたそうだ。これまでにない達成感と、嬉しさに包まれた。人に触ってもらい、演奏してもらえる。この感動が、どれほどのものか、自分で作ったことで初めて分かった。Kさんは

「この経験が、いつか君の人生で、何かの役に立ってくれることを願っているよ。」

 と言った。皆に感謝しつつ、僕の労作展は終わった。

 今は、母の生徒さんにも見ていただけるよう、玄関に飾ってある。

「今年の発表会は、これでバッハを演奏しなくちゃね。」

 と、祖母が言った。いつか、二段チェンバロを、木を切り出すところから作ってみたいと思った。