労作展

2019年度労作展 受賞作品

数学科

楽しんだ者勝ち

3年H.A.君

 五年前、初めて行った労作展。会場の雰囲気と、人の多さに圧倒されながらも教室に入る。すると、大きく華やかな絵画や、繊細で迫力満点の模型が眼に飛び込んで来た。しかし、人だかりができていたのは、絵画でも模型でも書道でも英訳でも文学作品でもない。その作品は教室の隅に展示されているにも関わらず、たくさんの人を魅了していた。そして、僕もその一人だった。子供たちの列に加わり、順番を待つ。何分か経ち、一つ前の子がその場から離れ親の元へ向うと、ついに僕の番が来た。目の前にあったのは、確かに僕が大好きなゲームだった。

 「これ、作ったんだ…」

 中学生が作ったとは思えないクオリティーに僕は虜になり、何回も列に並び直しては何回もそのゲームで遊んだ。その時から、僕の三年間の労作展のテーマは既に決まっていた。

 労作展は他の中学校にはない、普通部らしい行事と言っていいだろう。その特徴は、期間の長さだ。一年生はともかく、二、三年は前の年の労作展が終わった次の日から始めることができる。そうすれば、ほぼ一年間かけて一つのことに取り組むことができるのだ。僕自身、流石に一年間はかけていないが、年末年始くらいからなんとなくどんなゲームを作るのかを頭の中で考えて、それが決まったらそのテーマに合った参考文献を本屋等に探しに行っていた。そんな取り組む期間が長い労作展で何が一番大変か、それはモチベーションの維持であると僕は思う。

 モチベーションがなくなると、労作展はかなり難しいものになる。作るのが面倒くさくなり、作業がどんどん後回しになってしまう。特に夏休みの半ばは、初めの頃のモチベーションはなくなり、まだ時間があると思い込んで怠けがちになる。すると、完成がギリギリになってしまうのだ。僕も一年目のモチベーション維持にはかなり苦労した。もちろんプログラミングの知識は無かったので、かなり苦戦し挫折しかけたがなんとか完成にこぎつけた。なぜ諦めないで最後までできたのか、それはゲームが大好きだからだ。

 僕が初めてゲームで遊んだのは幼稚園の頃で、それ以来今までたくさんのゲームをプレイしてきた。そしていつしか、自分が考えたゲームを作って遊んでみたいと思ったのだ。しかし、労作展という機会がなければ、結局プログラミングには挑戦していなかっただろう。そう、労作展の二つ目の特徴は自分の興味があることに取り組むことができることだ。

 これは労作展最大の特徴と言って良いだろう。テーマが自由なので、それまで自分が興味はあってもやったことがないことにチャレンジする良い機会になる。それが僕の場合はプログラミングだったという訳だ。しかし、やること、テーマを自分で決めるのは逆に難しいことでもある。どうやってオリジナリティーを出すのか、自分の個性を生かすことができるテーマは何なのか、をじっくり考える。このテーマ決めから既に労作は始まっていて、この最初の過程が実は一番大事なのだ。とは言っても無理に捻ったテーマにする必要はなく、シンプルに今自分が一番やりたいこと、興味があることをテーマにすればいい。そうすればきっと辛い作業も楽しんでこなすことができるだろう。楽しんで労作展に取り組むことができれば、モチベーションがなくなることもなく、良いアイデアが次々と浮んで、完成した作品は良いものになっているだろう。

 「Aくんは…賞だね。じゃあこれがメダルで…はい、おめでとう。」

 もらったライオンのメダルは去年のカメレオンのメダルよりもずっと重く感じた。あらためて賞をもらえたことを誇りに思うとともに、三年間の労作展が終わりを告げることがどこか寂しかった。あの日のゲームを作った、顔も知らない先輩の後を追って三年間続けたゲーム製作。僕はプログラミングの楽しさ、ゲームが完成した時の達成感を知ることができた。そして、もう一つ気がついたことがある。

 労作展は「楽しんだ者勝ち」なのだ。