労作展

2019年度 受賞作品

美術科

普通部と僕と労作展

3年S.M.君

 そろそろに佳境を迎えつつある三年間の僕の普通部生活を振り返って、労作展は大きな試練の一つだったと言っても過言ではないだろう。

 早々と悟ってお恥ずかしい気もするが、きっと何十年経っても、普通部生と会えば、絶対に

「ああ、労作展、大変だったよな~!」

と語り合える気がする。

 小学生の頃に労作展の見学に来て面を食らい感動したが、「見るのとやるのでは訳が違う」というのを実際に普通部生になって痛感した。

 僕が三年間続けて取り組んだテーマ「エッシャー」とは数学研究会で初めて出会った。図学や想像の世界の魅力に満ちたトリックアートは、とても知的で楽しい。僕はただ絵を描くのではなく、その画家や手法、更には描くモチーフ、そしてその対象にまつわる知識を深めることで、画家エッシャー自身に憑依し追体験するような錯覚に陥っていたのかもしれない。美術科の作品であるが、描く前に行う題材のリサーチや知識の収集には人一倍時間を費やした。この莫大な作業こそが、僕の労作展の醍醐味であったと確信している。

 一年次にはエッシャーの人生と錯視画の研究を。二年次には大好きなロシア宇宙開発史を研究しエッシャーの技法で描いた。ドイツのシュパイヤー技術博物館まで、旧ソ連時代の幻の宇宙船「ブラン」を見に行けた事は、僕の人生の財産となった。最終学年である今年は、錯視や想像、思考の原点とも言える「脳」を題材に選んだ。いつも何を描くかを決めるのには一番頭を悩ますのだが、そんな時はいつも新宿の紀伊國屋へ足を運び、二、三時間ぶらぶらと彷徨った。そうする内に知識の泉から水滴が飛んできて、ふと立ち止まった所でヒントが見つかったりする。

 描くものが決まると、次は調査と分析だ。僕は生物の会でお世話になっているT先生に相談して、お二方の知識人を紹介して頂いた。第一線で活躍する普通部の大先輩なので大変緊張したが、アポイントメントを取らせて頂き、貴重なお話を聞かせて頂いたり、参考書籍を紹介して頂いたり、体験セミナーにも参加する事ができた。最先端の現場を見られた事は、想像以上に刺激的で濃度の高い原液の酒を飲み干すような贅沢な時間であった。

 学校の各分野の授業で得た知識を主軸としながら、自分自身で興味を持った対象を深く掘り下げ追求していく。このような取り組みは時間がかかり体力もいるが、進学校では決して挑戦できない貴重な経験であるし、普通部生に与えられた特権であると言えるだろう。様々な分野の研究と絵画との融合はルネッサンス期の芸術活動をさえ彷彿させる。これこそが普通部労作展の魅力なのだろう。

 サッカー部の練習でクタクタになっても描いた絵画。ドイツの飛行機の中で寝ずに書き上げたレポート。猛暑の中、駆けずり回った様々な人との出会い。大量の消しカスの感触と汚れたパレットと大きな紙の匂い。思い出は尽きない。さらば猛烈に励んだ青春の日々よ。さらば僕の普通部労作展。