労作展

2019年度 受賞作品

音楽科

三年間の集大成

3年J.T.君

 いままで、これほどヴァイオリンに熱中できたことがあっただろうか。そう思いながら、今僕は集大成として労作展コンサートに臨む。三年間の労作展の取り組み。色々なことが走馬灯のように頭を駆け巡る。

 一年生。ラフマニノフ作曲の「ヴァカリーズ」を演奏した。今もビデオを見返すくらいとても満足のいく演奏ができた。「ラフマニノフ」という一人の作曲家に溶けこむことで最高の演奏ができたと思っている。生い立ちを調べて、どんな境遇や環境で、その曲を作っているのか理解する。そしてその情景を思い浮かべながら演奏する。演奏後、しっかりと作曲家に成りきり演奏できたか振り返る。初めてづくしの労作展は達成感と楽しさしかなかった。初めてボールとグローブを買ってもらってキャッチボールをするだけで楽しかったのと同じだった。

 二年生。プロコフィエフ作曲「三つのオレンジへの恋」を演奏。プロコフィエフは日本で暮らしていたこともある。日本を愛した旅人生は興味深く、研究を通じて大田黒元雄という日本の音楽評論家の父とも言える人物を知ることができた。こういう出会いも労作展ならでは。ただ曲は難しく、技術的には短二度のぶつかりや変イ長調からの半音ズレといった不協和音の独特な和声の重音に最後まで苦しんだ。キャッチボールからミットに全力でストライクを投げ込む練習を始めた気分だ。楽しむだけではなく苦しさも芽生えた。これが成長というものなのか。

 そして三年生。ロシア人作曲家ストラヴィンスキーにした。ロシア人で一番有名だろうストラヴィンスキーだが、実は小さい頃に聴いていた。僕が大好きなディズニーの「ファンタジア」という映画だ。そのワンシーンに流れていたのがストラヴィンスキーの「春の祭典」という曲だった。当時は曲の名前も作曲者も知らなかったが、曲そのものは衝撃的ですさまじかった。この、昔衝撃をうけたことのあることが、選んだ一番の理由だ。その中で「イタリア組曲」に決定した。まるで労作展というタイムマシンで昔の自分に会いに行った気分。昔の自分に「この曲はストラヴィンスキーの曲だよ」と言ってやりたい。ストラヴィンスキーの生い立ちについても調べた。音楽をやりながら法律も勉強していたが、作曲家としての道を選んだ。その強い信念を表現したいと思いたくさん練習した。

 知識だけでなく技術も身につくのが労作展の良いところ。変化球を覚えるように毎年必ず一つずつヴァイオリンの技術を学んだ。一年の時はビブラート。二年の時は重音(不規則な重音は本当に難しかった)。今年はトリル。今まで簡単なトリルしかやったことが無かったので最初は全くできず、一時間トリルの練習をした時もあった。そのかいあってか父に「だいぶうまくなったね」と言われた。僕のヴァイオリンの先生のY先生も悪いところを指摘して下さった。多くの人のおかげで取り組めていることを忘れずに練習した。

 演奏収録の日。目黒のパーシモンホールはきれいに響き渡る最高の環境だった。一〇回ほど収録し、納得いく演奏を選んだ。あとは当日のコンサート。一発で満足いく演奏ができるまで程遠い。さらに練習を重ねた。正直なところ、本当に不安だった。「終わりよければすべてよし」という言葉があるが、逆に終わりが悪くてもダメだということだ。

 演奏会当日。大勢の前に立つのは三回目でも緊張する。甲子園のマウンドに行く気分。でもこれを乗り越えてこそ真の成長になると信じた。まず曲紹介をする。震えがきた。頭が真っ白になる寸前で曲紹介を噛んでしまった。しかし、このおかげで少しリラックスできた。テンポを守りトリルを正確に。何より楽しんで。三年間の生演奏で僕は本当に満足する演奏ができたと感じた。演奏し終わった後の拍手は人生で一番大きく感じた。

 楽しかった一年目。苦しさを知った二年目。達成感を味わった三年目。三年間続けなければこの気持ちの変化と成長は実感できなかった。そして改めて作曲家たちの作品の尊さを学んだ。労作展として取り組むのは終わりだが、これからも作曲家の心情や曲の背景を忘れずに、ヴァイオリンを弾いていきたい。