労作展

書道科

臨書「曹全碑」 / 苦労の先にあったもの

3年Y. R.君

 僕にとって労作展で良い作品を作ることは普通部生活で達成したい目標のうちの一つだった。初めて労作展の作品を見た時から、僕は普通部に入学したら労作展で受賞したいと思った。
 普通部に入学して一年生のときは、労作展のことを考えて兄の普通部会誌などを読み、書道科の作品を制作することを決めた。僕は入学前から集中力と忍耐において欠けている点が多いと思っていたので、それを克服するために書道が最適だと考えた。
 また、僕は前々から文字について興味を持っていた。文字には個々の感情が表れたり、字体によって与える印象が変わることについて不思議に思っていた。だから僕はそれらについて詳しく知りたいと思ったので、三回ある労作展は全て字体が違うものに取り組むことにした。そして筆の使い方によってどのような感情や印象の違いが表れるのかを毎年研究しながら作品を書こうと決めた。
 検討した結果、一年生では鋭く、緊張感がある線が特徴で白と黒のバランスが絶妙で厳正な楷書である「九成宮醴泉銘」、二年生では穏やかな柔らかい線が特徴で大きく紙を使う行書である「蘭亭序」、三年生では横長で規則的ながらも伸びのある線が特徴で隷書の完成形と言われる「曹全碑」に取り組むことにした。
 一年生のときは今まで半紙の上でしか筆を滑らせたことが無かったので、半切書きに慣れるのにとても苦労したことを覚えている。そして無我夢中で半切書きと半紙書きを繰り返してあっという間に夏が終わった。そして初めて賞を手にした嬉しさは今でも覚えている。
 二年生のときは一年生のときよりかは焦りが無く、よく知らない字体であったので文字の分析に力を注いだ。そして一枚毎に時間をかけて作品を書いて、質の良い練習ができた。しかしその引き換えに練習量が少なくなってしまった。この年も賞を貰うことができたが、少し悔いが残る労作展になった。
 そして今年は最後の労作展であり、三年連続の受賞もかかっていたので、悔いのない今までで最高の作品を制作するべく思考を巡らせた。僕は一年生のときの勢いと練習量、二年生のときの分析と一枚ずつを大切にしていく書き方が両立できれば最高の作品が書けると思った。そしてそれらを両立するためには多くの時間が必要だと思い、例年よりもかなり早く冬から制作を始めた。
 最高の作品を書くために今まで以上に一字一字の特徴や全体のまとまりに注意して練習した。全く知らなかった字体だったこともあり、しばらくは横画一つを書くだけでも苦労したが、夏になるまでにまともな字が書けるようになった。
 夏休みになってからは伸び悩んで筆を持つのが嫌になった日もあった。そして僕はそれまで以上に線の質にこだわり、苦手な画は幾度も書いた。また、今まで考えたことのなかった墨の質についても学び、曹全碑に少しでも近づくようにした。そして試行錯誤を繰り返して、表装をする期日の寸前にようやく納得のいく作品が完成したことを覚えている。その時に力が抜けてしまったのか、その日は片付けが終わるとすぐに寝床で爆睡していたらしい。
 労作展の日、僕は緊張していたのか、学校にかなり早く登校していた。そして教室の窓から見えていた自分の作品の裏側を見て余計に緊張してしまった。そしてついに教室のドアが開けられ、僕は恐る恐る入室して自分の作品を見た。そこにあったのは賞、しかも裏に赤いペンマークが付けられた紛れも無い自分の作品であった。僕は今までとは違うとても大きな喜びを感じた。最後の年で最高の字を書け、最高の賞を貰えたことは本当に嬉しく、名誉なことだと思う。
 労作展で得られたものは書道の能力に限らずとても多く、これから生活していく上で活用できることも多いだろう。こうして僕は労作展で自分の持つ力を出しきり、目標を達成した上に大きなものを得ることができた。