労作展

社会科

裁判・司法を考える~実際に裁判員裁判を傍聴して~ / 労作展と目路はるか

2年R.O.君

 「普通部らしい行事」と聞いて、あなたなら何を思い浮かべるだろう。まっ先に頭に浮かぶのはやはり「労作展」ではないか。今まで八十八回という歴史を積み重ねてきた労作展は単なる展覧会ではない。四月、五月、テーマによってはさらに前から計画を立て、自分一人で作品を完成させる。労作展は、普通部の校風を表す行事だと思う。
 もう一つ、「普通部らしい行事」として、僕は「目路はるか教室」を挙げる。普通部の先輩方が直に僕たちに刺激を与えてくれるこの行事。先輩方の職場を見学したり、時には人生のヒントを教えてくれたり。百聞は一見に如かず、と言うようにこの目で確認することは僕たちにも格別の経験になる。
 さて、今年の労作展で僕は社会科で出品した。裁判員制度を調べたのだが、実は、今回は先に述べた労作展と目路はるか教室が密接に関係している。
 前回、一年生の時の労作展。原子力について調べ、賞を頂くことができた。メダルを頂いてもちろん嬉しかったが、僕は、次の労作展のことを考えていた。なかなか良い案が出ない中、十月になり目路はるか教室の案内が配られた。テレビ局、銀行、医者…、そんな中で目にとまったのが、ある弁護士の方のコースだった。紹介文には「実際に刑法が使われている現場として、東京地裁の傍聴をします」とあった。傍聴か…。もともと司法に少なからず興味もあったので、好奇心に駆られて希望することにした。  運良く、その弁護士の方のコースに当たり、目路はるか当日。講師は、後の労作展の原点を与えて下さった増田充俊弁護士。増田弁護士と共に、僕たちは東京地裁に入った。
 僕にとって傍聴は初めての経験だった。その裁判自体は軽いものだった。しかし目の前で裁かれているのは本当に起きた事件。ドラマとは違う。厳かでもあり、人間味もある。裁判に、僕は魅せられた。増田弁護士のコースで初めて傍聴した僕は、次の労作展は裁判についてやろう、と決心していた。
 だが、裁判は平日しか開廷されず簡単には傍聴はできなかった。それでも夏休みには初公判から判決まで全て見ることもできた。証人尋問の日には朝十時から夕方十七時まで法廷にいたことも、労作展の思い出の一つである。
 今回の労作展では、裁判員制度を中心に司法制度の調査、研究に取り組んだ。実際に裁判員裁判を傍聴して気付いた問題点を考える。論文では考察としてまとめたが、僕は傍聴によってもっと大きなことを考えることができた。
 少し話からそれるが、日本では新聞の社会面を見ても分かるように毎日殺人事件が発生している。凶悪な犯罪が次々に起こる。あなたはこういった事件を聞いて、どこか他人事に思ってはいないだろうか? 今日の事件も明日になれば頭の隅に追いやられはしないだろうか?
 僕は実際に傷害致死の事件を傍聴した。この事件では一人の方が亡くなっていた。この重大な裁判を傍聴して、僕は事件報道に対する考え方が少し変わった。一度でも直接傍聴すれば、間接的なメディアの報道から受ける印象も変わるのではないか。ニュースからは読みとれない事件の背景、因果関係をさらに考えることができるのではないか。僕は傍聴をしたことで、被害者の思い、逆に加害者についても、多少なりとも、想像力を働かせるようになった。
 僕は裁判を見れば、人の考え方は変わるのではないかと思っている。その裁判の様子を少しでも感じてもらうために、実際の傍聴記録や法廷イラストを描いた。イラストは全くの素人で、上手なのか下手なのか自分でも分からないまま出品した。しかし殊の外、友達からの反響も大きく、法廷の雰囲気を伝えることができ良かったと思っている。
 この労作展、元々は目路はるか教室が出発点だった。増田弁護士のコースで傍聴という体験があって、裁判をより身近に感じ、司法の世界の興味深さを感じることができた。そして、今回の経験はこの先自分の将来を考える際に必ず有益になると思う。目路はるか教室、そして講師であった増田弁護士に改めて感謝したい。