労作展

2018年度 受賞作品

書道科

集大成

3年T.S.君

 きっかけは母だった。母の知り合いの方に教えて頂いた「甲骨文字」に触れた事が全ての始まりだった。小学生の頃、夏の自由研究など適当に済ませていた僕は、近づく計画表の提出を前に悩んでいた。絵が上手い訳でもなく、手先が器用でなくどうすればいいのか全くもって分らなかった時に母が選択肢の一つとして示してくれたのが書道であり、甲骨文字であった。それは僕が今まで学校で習ってきた「習字」とは一八〇度異なる物だった。激しい筆のタッチ、弾ける線と墨、原形とは似つかない字形。いかに正しく、綺麗に書くかを求められた習字とはおおよそ対極に位置しているだろう。そんな書道に惹かれた僕は、書道で甲骨文字を書く事に決めた。

 一年目は普通部を象徴する「学問」を。二年目は停滞していた自分に向けて「前進」を書いた。前の二回は明確な趣旨があり、それに沿った二文字を選んでいた。しかし今年はこれと言った課題も、目標も作品にふさわしい物が思い浮かんでこなかったのだった。だったらもう感情にまかせて選んでみようと考えた。パラパラと辞書をめくり、気になった語を候補として選んでいく、そんな気持ちにまかせた方法をとろうと思ったのだ。

 辞書をめくっている、パラパラと。候補は少しづつ固まりつつあった頃だった。ふと「星」の一文字が目に留まった。その時は人の作った物や事柄ではなく、自然現象、たとえば虹などを選んでいたのもあるかもしれないが、星には何か神秘的なものを感じた。そうして星に関したものを思い浮かべていると、なにがソースかは分らないが「彗星」の二文字が出てきたのだ。決してロジカルな考えではなかったと思う。直感としか言いようがない感覚によって選んだ二文字に妙な思い入れがわいた。字選びはその日のうちに十単語程を出した時点で終わらせた。ここから試し書きをし、更に選りすぐった単語からこの彗星を選ぶまであまり時間はかからなかった。

 問題はここからだった。旅行、合宿などの予定が重なり二週間程作業が滞ってしまったのだ。やっと再開できたのは八月の下旬、裏打ちなど考えると一~二週間で仕上げなければならない。実を言うと去年、先昨年とも制作期間的にはあまり変わらないのでそこまでの負担ではなかった。一番は場所と予算の問題だ。僕が使う紙は四尺と大きい上に厚いため、普通の半紙の比ではない程に高い。それは墨にも言える事で、一度に付ける墨の量が多いため恐しい勢いで減って行くのだ。その墨も紙と同じぐらいの金額がする。親にも初期費用以上に払ってもらうのも忍びないのでできるだけ早くに終わらせたい。しかも一回書くのにも体力を使うので、クオリティを下げずに練習するには一日六枚が限度だった。そのため練習をしっかり練習するには日数がいる。しかし作品を作るには書く場所、乾かす場所が必要なためかなりの広さが要る。なので場所の確保がとても難かしかった。公民館などを借りたりなどしたが、それでも更に少ない日数で終わらせる必要に迫られた。しかし練習するうちすぐに終わりそうだと思えた。

 三日間程練習していくなかで少しづつ上達して行く自分を見つめ、嬉びを噛み締めながら書いていった。そして六日を過ぎた時、清書に致った。一発目は疲れのせいか壊れてしまったため、日を変えて清書を続けることにした。そして計六枚の清書を終え、二つが残った。ここまでで予定していた期間の大幅な短縮に成功していた。予想が的中したのだった。二つの内の一つは全体的に整っている玄人向け、もう一つは勢いに溢れた素人向けのものだった。この二つはどちらも去年の作品の出来を凌駕していると思えるものだった。故に落款を押しても優劣は付け難く、最終的には装丁の色の好みで決める事になってしまった。だが自信を持って出せる作品に仕上がっていた。

 それを知ったのは母からだった。昼下がりに学校に行くと、作品には賞の文字があった。その時は、レポートなどとは比較にならない達成感が全身を満たしていた。今思うと、一年時賞を取っていない事が悔やまれるが、関係ない。この作品は、僕の集大成であり、最高傑作だ。