2024年度 目路はるか教室
3Eコース
アートや音楽で素っ裸になる
月光荘 主人
日比 康造 氏 (ヒビ コウゾウ)

一度きりの人生で、自分は何が好きで、何が嫌いで、何が欲しくて何を手離し、何を最優先とするのか。価値観の解像度が低ければ、常に変化していく現場で、納得のいく決断を下していくことは難しい。昨日の延長が今日ではなくなり、一瞬一瞬に自らの判断や決断が迫られる時代。最適解はAIが出してくれるが、最幸解は自分で見つけるしかない。
そんな時に音楽やアート、また酒場での時間は、素っ裸の自分を確認する良いきっかけとなる。どうしてこの音が好きなのか。なぜその色を選んだのか。心地よく感じる、逆に不快に思う理由はなにか。湧き上がる感情はどこから来るのか。感じたことを言語化するだけでなく、色や音を通じて人に伝えられる表現力は、今後より一層重要になる。
また酒場では何を言ってもいいしやってもいいが、ぶん殴られる可能性があることを知る。礼儀とは、手が届く距離の恐怖と対をなしてこそ意味を持つ。
学歴や出自、年齢などの記号は、上質な酒場ではまったくお呼びでない。目の前の個人が魅力的かどうかのみが問われる。実社会に出れば、同質の人間とだけつるんで過ごすわけにもいかない。
今回の素っ裸体験や僕との対話が、これからさらに加速する経済格差、暮らしのデジタル化による人心の荒廃、減点主義社会の閉塞感を突き破り、自分ならではの人生を逞しく生き抜くエネルギーとなることを祈りたい。
しかし普通部生とはこんなに優秀だったのか。全員が時間通りに指定場所に集まり、授業が始まるのを静かに座って待っている。かと言ってただの優等生ではなく、然るべきタイミングで感じたことを自由に表現している。確か普通部生ってもっとメチャクチャな存在じゃなかったっけと思いつつも、それはお前だけだよという声がどこからともなく聞こえてきたり。
散らかり放題だった当時の普通部での日々を思い出し、現役の先生方はもちろんのこと、今は鬼籍に入られた先生方にも心で手を合わせた。