2021年度 目路はるか教室

1Cコース

「その国宝、いくら?」 〜古美術商の仕事〜

1980(昭和55)年卒業株式会社平山堂 代表取締役

高橋 豊 氏(たかはし ゆたか)

 この度は思いがけず、目路はるか教室で普部生と交流する機会を与えていただき誠にありがとうございました。13歳時という、人生の中でも最も感受性が高い時期と思われる生徒たちの、作品に見入る目の輝きが忘れられません。自分にとっても得難き貴重な体験となりました。

 普通部から送られた授業の要項の中に、タイトルは分かりやすさが大事とあったので、ちょっとチャレンジをしてみたところ耳目を集めることには成功したようです。TVの人気番組のおかげかもしれません。

 私は古美術商として作品を扱うと同時に、美術品の価格精通者として文化庁や国立博物館などが作品を購入する際の価格評価員を例年務めています。その際には国宝や重要文化財等の貴重な作品が含まれていることも多くあります。

 当日は授業を二部構成として、前半は講義、後半は作品鑑賞の時間としました。前半の講義では、生徒からの質問にも多くあった普通部時代の労作展の話に始まり、某人気番組の裏話、戦国時代における美術品の持つ意味、文化財の価格評価会の実際、日本独特の美術品流通の仕組みと歴史、そして皆さんにも作品を鑑定する能力は備わっているなどのお話をしました。しかし、私のうっかりミスで当日は用意していたスライドを使用することが出来ず、後に送られてきた感想文を読んでも誤解を受けている点が見受けられたので後ほど訂正したいと思います。

 後半の作品鑑賞では、教室に1点の屏風と6点の掛軸、1点の茶入れを持ち込み露出展示しました。日本の古美術品、特に絵画はその素材の性質から保護のために、西洋の油絵とは違い展覧会でも長期展示することが出来ません。ましてやどの展覧会でも作品を露出で展示することは無いでしょう。もちろん技術の進歩によって現代では透明度の高い展示ケースなどが使用されていますが、たったガラス一枚といえども作品の持つ魅力が削がれることは否めません。なぜなら本来は、日本家屋で身近に鑑賞を楽しむために制作された物だからです。普段美術品を扱う身として、ぜひ普通部生に作品を生で鑑賞する体験をしてほしいと考えました。コロナ禍ということもあり全員がマスクをしているので、作品の保全を考えると通常ではありえない、作品まで30 〜40㎝の距離まで近づいて絵の細部の表現を見てもらったところ、美人図の髪の表現の線描の美しさや色彩の豊かさ、仏画表現の截金の技術の高さなどに驚きの声が上がりました。当日展示した作品は下記の通りです。

・「千手観音像図」 鎌倉時代

・円山応挙 「唐美人図」 江戸時代

・尾形光琳 「布袋・松・梅図」三幅対 江戸時代

・仙厓義梵 「老子図」 江戸時代

・川端玉章 「雪松図屏風」 明治時代

・柴田是真 「瀬戸の意茶入」 江戸〜明治時代

受講された皆さんへ

 皆さんの感想文を楽しく読ませてもらいました。国の購入作品の評価会とオークションの話を続けてしたために、混同や誤解をされている点が見受けられたのでここで訂正します。まず国が作品を購入する際の評価員は7名で、上下を切り中5人の平均を取るという話をしましたね。ここでは他の人と一切相談は出来ません。厳正を期するために、事前に作品を知らされることもありません。プロとして、出来るだけ平均に近い数字を出せるよういつも緊張して評価をしています。一方、1日に1000点以上扱うのは鑑定や評価ではなく、プロのオークションにおいてです。実際にそれだけの数が売買されています。

 写真と実物の作品との違いはよくわかってもらえたようですね。作品についての感想を読んで、とても嬉しく思いました。今回の授業が、今後皆さんが美術品に親しむきっかけになれば幸いです。

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