労作展

2024年度労作展 受賞作品

書道科

二年越しの計画

3年S.K.君

 僕の労作展は二年越しの計画だった。
 普通部に入学して初めての労作展は、あっという間に過ぎてしまった。今思うと、労作展で取り組んでみたいと思うようなものもなく、夢中になれるものを模索する夏だった。不完全燃焼のまま、来年の労作展のヒントを得ようと先輩方の作品を見て回った。その中で僕の目に焼き付いたのは三年生の書道作品だった。字形からして隷書だったと思うが、来年の労作展では僕も書道に挑戦してみたい、と思うような作品だった。一年生の労作展が終わるとすぐに僕は書道を習い始めた。労作展で書道に挑戦するからには絶対に取り組みたいと思っていた作品があった。それが「曹全碑」だ。書道の先生に僕の思いを伝えたところ賛成してくれたが、一年後の二年生でいきなり隷書ではなくまずは楷書に取り組んで力をつけてから、僕が三年生になったときに労作展で隷書を挑戦するのはどうかとアドバイスを受け、僕の二年越しの計画が始まった。
 二年生で臨書したのは「孔子廟堂碑」。おそらく書道で楷書の作品を書くほとんどの人は楷書の極則と言われる「九成宮醴泉銘」を臨書するだろう。僕も初めそうしようかと思っていたが、作品研究をした際見つけた書道家を評価した本には「孔子廟堂碑」は「九成宮醴泉銘」を超える作品だと書かれていた。僕はこの作品で楷書を極めようと思った。揺るぎない線質の中にも穏やかな伸び伸びとした書風があり、徐々に惹かれていった。作品への思い入れが強くなっていくと、「ただの楷書」から「孔子廟堂碑」の字体へと成長していけたと思う。二年生の夏も終わり、表装した自分の作品を改めて見たときに、僕にも他人に胸を張って好きと言えるものが見つかった気がした。僕の中に書道に対する小さな芽が出たのだろうか。
 三年生ではもちろん「曹全碑」に挑戦した。「曹全碑」は、隷書が技巧的に洗練の極致に至った書である、と言われている。二年前から憧れていた作品に挑戦できるのは楽しみだったが、初めての隷書体は独特の筆法が難しく、初めは字を書き切るので精一杯だった。横画だけをひたすら引き、一字ずつ何度も半紙に練習し、半切に十八字を一気に書き上げる。十八字を書き上げるのに一時間程度かかる。ただし一画でも書き損じがあればその半切は使えない。だから十八字全てが整うまでは永遠にその繰り返しだ。地味で地道な作業だ。隷書の作品が労作展締め切りまでに形になるかさえ分からず、不安が拭えなかった。それでも昨年の練習も少しずつ僕の力になっていた。基本的な字のバランスの取り方はもちろん、今年はどのような手順で練習すれば上達するかも理解していた。八月上旬にようやく隷書の字形を掴み、一字ずつの細かい調整をしていった。最後に書いた半切は、練習中に見つけた注意点、文献で調べた字の特徴、書道の先生からのアドバイスを総合的に考え、僕の二年間の努力を全て出し切った作品になっていた。労作展を苦手に感じていた僕だったけれど、労作展で先輩の作品に刺激を受け、労作展のために過ごした二年間があり、それが結果自分にとって大切なものになった。労作展がなければ書道と向き合うこともなかっただろう。終わった後は、書道を続けるのかと先生に聞かれたが、僕は続けたいと答えた。大事なものを見つけたと思った。
 労作展当日、教室に入った瞬間、「特別展示おめでとう!」とクラスのみんなから声をかけてもらった。その言葉に戸惑い、自分の作品をダッシュで見に行った。一瞬嘘なのではないかと疑ったが、僕の作品にしっかりと「賞」と書かれた札が付いていた。しかもペンマークつきだ。僕の二年越しの計画が実った瞬間だった。