労作展

2024年度労作展 受賞作品

美術科

感動

3年S.M.君

 いつの間にかもう四年も前のことになる。新型コロナウイルスの蔓延に伴い、一斉休校が発表され静かになった日々の中、音楽と映像という趣味に没頭した。
 そして中学一年生の最初の労作展はこの二つのうち音楽を選んだ。テーマは「音楽科」と聞いて連想されるクラシックではなく、音楽の長い歴史を経て生まれたポピュラーミュージックを研究した。何度か「このテーマで音楽科としてどれだけ評価して頂けるのか」と不安に思うことがあったが、今の自分の興味に嘘をつくことも出来ず、熱意をもって自分なりに追求した結果、賞という形で評価を頂けた。
 それならば次は美術科で映像を追求しようと考えた。「動く絵」である映像の作品もよく考えれば美術の長い長い歴史を経てできたものの一つだろう。さらに今や音楽は映像作品を盛り上げる重要な役割となっており、この二つは共存して一つの芸術を創り上げることができる。こうして中でも興味のあった3Dアニメの映像と音楽を自作し、「一度諦めた夢を再度追う主人公が未来へタイムスリップし自分の将来を目にする」というストーリーで「カスミソウ」という題の映像作品を制作した。舞台は未来の街に加えて「CGだからこそ描けるリアル」に注目し、夜の街とアパートの部屋を描いた。3Dアニメはコンピュータグラフィックス(CG)の一つで、「STAND BY ME ドラえもん」の美しい映像に感動を覚えたのが初めである。しかし手で描く、彫るという作業に対して、CG作品を美術の観点から評価して頂くことは難しいのではないか、という懸念もあった。ただでさえ複雑なソフトの操作が、処理が重くなることでカクカク動くことにも苦戦した。試行錯誤を塔のように積み重ね、結果創りたいモノを作れ、二年生も賞という評価を頂けた。
 そして三年生、最後の労作展。「集大成にふさわしいものを」とまずは企画書を制作し、「天つ空で」という題で映像はVFXに挑戦した。VFXとは実写とCGを重ね合わせる近年の映像作品に欠かせない技術で、二年生時の経験も経て少しずつ手の届きそうな技術になってきていた。話の舞台は雲の上の世界。誰もが想像したことはあるけれど、案外描いた作品は少ない。複雑な要因で作られた自然物をCGで描くのはとても難しく、「なんか違う」を繰り返して一番リアルで幻想的なものを探った。ストーリーはこの三年間を振り返って「友情関係」を雲に喩えた。どこか合う部分があって、少しずつ関係を深めていく友達。しかし仲良くなる中で、例えばお互いの進路で離れ離れになったり少し苦手な部分を見つけて距離ができてしまったりということが、人と人との繋がりの中でしばしば起きるのではないだろうか。そしてそのようなことがあっても、また時が経って再会したとき、それを越えたからこそ丁度良い距離の、より強い人間関係が持てたら嬉しいな、という願いも込め、これらを雲の上の不思議な話として隠喩した。おそらく映像を見ただけではこれらのメッセージは伝わらないが、「どんな意味があるのだろう」と興味を持ってくれたらとても嬉しい。音楽はピアノを基調としたサウンドトラックを制作した。自分に出せる最大の芸術性を発揮させ、満足のいく作品に仕上がった。そしてそれは美術科の賞として評価して頂けた。さらに嬉しかったのは、作品の前を通った親子や高校生が足を止めてじっくり見ている姿、制作日誌を捲ってくださる姿を見かけたことである。クリエイターにとって一番嬉しい部分を、自分は体感できただろう。
 三年間の労作展を通じて、少し本流とは外れた場所で自分の興味や創りたいものを追求してきた。何かからもらった感動を忘れずに、追求する機会を作り出すというのが大変重要だということを労作展から教わった。苦戦ばかりでも、それも含めて面白くて、楽しくて、自分の予想を超えたことを労作展でやり遂げることができた。“感動したもの”に正直に向き合って、突き詰めてみる。これを大事にこれからも創作や研究を続けていきたい。そしていつか、誰かに“感動を与える”側になれたらいいなと思っている。