技術家庭科
達成感
3年H.M.君
六月五日、僕は学校を欠席した。理由は労作展のためである。僕は今年野球のグラブを作ることにしたのだが、なんとアシックス社から研究に活かせるようにと工場見学の許可が降りたのだ。そしてこの日、工場のある大阪へと出かけることになった。
工場は街中のあるビルの一階にあり、中はかなり広かった。この日はグラブ作りの全行程を見ることができた。そして、工場の方々からグラブ作りについてのアドバイスをいただいた。そのアドバイスを聞き、僕は相当難しいことをしようとしていると知った。
遡ること一ヶ月前、工場見学に向けて構造を少しでも知っておくため、グラブを購入して分解し、使われているパーツや材質などを理解した。僕は革用のミシンを持っていないため全て手縫いで作ろうと思っていたが、細かいパーツをどうしたら縫えるか悩んでいた。
工場の方々から、ハミダシの縫製が難しいだろうと言われた。ハミダシとは、グラブの外側を縫い合わせるときに革と革の間に挟む五ミリほどの細長いパーツである。これがあることによってグラブの形を整え保っている。手縫いでグラブを作るためにはハミダシをなくして直接革同士を縫わなくてはならない。アメリカのあるグラブメーカーの技法を使えば手縫いでも製作可能ではないかとアドバイスをいただき、僕は一度分解したグラブをハミダシなしで復元することに決めた。
工場見学から帰ってきて学んだ内容をまとめ終わると、グラブの復元に取り掛かった。本番に備えて分解した部品の型紙をとり、作業に必要な道具を買い揃えた。そしていよいよ復元作業開始。レザークラフトに使うロウ引き糸を使い、縫い目が揃うように根気よく縫い続けた。指部分の革を一枚ずつ縫い合わせ、次第にグラブの形になっていく。穴の位置を合わせることに固執しすぎたのか、完成したグラブはとんでもなく形が歪んでしまっていた。試しにボールを捕ろうとしたが一度も捕れなかった。肝心のグラブの形に整えるということを考えず、無我夢中で縫ってしまった。紐通しも含めここで多くの課題が生まれた。
七月下旬、工場見学でお世話になった方が出張で横浜に来ると聞いた。そこで復元品を見せるためスポーツ用品店へと出かけ、たくさんのアドバイスをいただいた。型を崩さないコツや本革で縫う際の注意点も教えてくれた。このアドバイスを忘れずに、本番では復元品と比にならないほどの良い作品を作ろうと決意した。
いよいよ本番の製作が始まった。本番は縫うだけでなく、革を裁断するところから作業する必要がある。型紙から少しでもずれると形が崩れるので、裁断から緊張する。革を切るのは意外に力も必要だった。そして切った革の断面を磨く。これは根気のいる作業だった。磨いたらいよいよ縫製に入っていく。本番は外側だけでなく、指芯や指当てなどの内側の部品も縫わなければならず、時間もかかり大変だった。とにかく復元作業での反省を生かし、型を崩さないことを特に意識して縫った。バラバラだった革が次第に指の形になっていくのは達成感があった。数日かけて手の甲側の外側の部位が形になって来た時は「自分がグラブを作っている」と実感した。親からも「綺麗に縫えているね」と褒められ、僕は思ったより裁縫のセンスがあることに気づき、嬉しくなった。型を崩さないよう、紐も一本一本時間をかけて丁寧に通した。そして出来上がったものはとても満足のいくものだった。
労作展当日、僕は野球部の招待試合もあったので教室が開く前から待機していた。やがて教室が開き、自分のグラブの前へ行くと、そこには「賞」と書かれた紙が垂れていた。そしてその裏には、鮮やかな赤いペンマークが描かれていた。僕のこの夏の努力が報われた瞬間だった。
こうして僕の三年間の労作展は幕を下ろした。グラブ製作はとても楽しく、「自信作」といえるものだったなと思う。この夏の経験は一生忘れないだろう。