労作展

2023年度労作展 受賞作品

音楽科

苦悩を突き抜け歓喜に至れ

3年F.T.君

 本教室三階の教室に陳列されている三年生の作品達は、 見る人の心を掴み、 動かす素晴らしい作品ばかりだ。 今までの集大成となるような作品が勢揃いだ。 二年生の頃の僕はこの眺めに呆気にとられていた。 「来年の僕にこんなに輝かしい作品が作れるだろうか。 今年のもので精一杯だったのに」 僕の頭の中では早くも来年への不安が渦巻いていた。     
 昨年度、 僕はやっとの思いで作品を仕上げ、 賞をいただけた。 受賞ができたのはとても嬉しかったが、 それ以前に作品の内容が不本意だった。 やっつけで終わらせた楽曲分析と、 それと方向性の合わない演奏。 僕がしたかったのはこんなことではないと過去の自分を責めた。 しかし、 僕にはまだ一年残っている。 もう一度労作展で 「音楽」 をするチャンスが。 テーマはベートーヴェン作曲のピアノソナタ 『悲愴』 に決めた。 この曲は第一楽章から第三楽章まであり、 一曲自体は長いが、 去年取り組んだバッハの 『シンフォニア』 十五曲全曲よりは短い。 楽曲分析を質の高いものにして、 それをもとに着実に演奏ができるようにするためだ。 これに加えて、 今回の作品では 「見せる」 ことを意識した。 今年から労作展は一般公開が解禁され、 多くの人が来る。 受験生として見に来たいつかの僕くらいの子もたくさん来るだろう。 その人達には僕の作品を楽しんで欲しい。 魅力を感じ取って欲しい。 こういった思いから、 「見せる」 作品になるようにクイズを作ったり、 音源に普通部の歌などを盛り込んだりした。 これらの工夫はもちろん、 演奏の質や楽曲分析も昨年度より数ステップ上優れているものを作りたい。 特に、 昨年度の作品で最も力を注いだ楽曲分析はクオリティを維持しつつ、 読み応えのある文章でまとめることを目標にした。 そのために 「ベートーヴェン」 という作曲家と向き合うことが大事だと考え、 著名な先生の講演へ足を運んだり、 オーケストラのコンサートを聴きに行ったりした。 演奏では、 古典派の作曲家であるベートーヴェンをかっちりと弾くのに適した音を出せるように特訓したり、 他の曲を弾いていて 『悲愴』 の練習に繋がりそうだと感じたことを重点的に練習したりした。 普段の練習では行わないような細かな練習もがむしゃらに行った。 それでも中々納得のいく演奏ができず、 演奏の録画当日まで苦悩の日々が続いた。 ここまで根気強く取り組めたのも、 演奏や楽曲分析を突き詰めて行えたのも、 全て 「労作展」 という行事のもと自らの追い求める作品を創作できたからだと思う。 また、 僕をやりたい放題させてくれて、 たくさんアドバイスや応援をしてくれた家族、 僕の若干の高望みをいつも叶えて下さるピアノの先生、 様々な所で活躍の場を下さり音楽の楽しさを教えてくださった鎌田先生など、 多くの人達の温かい援助の上に完成した僕の三年間の集大成だと感じている。 この場をお借りしてお礼を言わせていただきたい。 本当にありがとうございました。
 普通部に憧れを抱いて、 本教室三階のF組の教室に入った少年が、 数多くある素晴らしい作品の中から作曲家のクイズや音源のついた音楽科の作品を見つけた。 楽しみながら鑑賞しているうちに音楽の魅力に心を掴まれ、 動かされた。 製作者の集大成と思われるこの作品には 「賞」 と書かれた札が貼られていた。
昔の僕のようなこの少年に、 僕が感じた 「労作展」 の素晴らしさを伝えることができた。 僕はこの日、 歓喜に至った。 これでリベンジ完了だ。