理科
労作
3年S.S.君
それは小学四年の時だった。 気軽に訪れた労作展だったがその作品の数々に圧倒された。 その中でも特に興味深い作品を見つけ、 夢中になってレポートを読み続けた。 閉館時間まで粘るもついにタイムオーバー。 家に帰るとすぐに、 「一人労作展」 と題し、 当時好きだった鉄道について知っている限りをノートに書いた。
この出会いをきっかけに、 普通部が僕の第一志望校となった。 その後いくつもの学校を見学したが、 普通部の労作展に勝るものはなかった。 翌年の労作展では、 真っ先にあの先輩の作品を探しに三年生の教室へ向かった。 先輩は去年と同じテーマで研究を続けていた。 もちろん、 長時間独占してレポートを読んだのは言うまでもない。
ついに労作展に出品する時が来た。 釣りと魚が好きだったため、 釣った魚の研究をしようと決めた。 入学してすぐに父とよく行っていた川の年間漁遊券を購入し、 労作展に向けて張り切っていた。 しかし、 新型コロナウィルスの影響で釣りが思うようにできないことが判明した。 想定外のことで悩んだが、 やはり魚の研究は諦めきれず、 購入した魚を解剖してその年齢を調べることにした。 とはいえ、 解剖などしたこともなかったため、 始めは耳石一つ採取するのにも時間がかかり、 触りすぎてどれが耳石か骨かわからなくなり結局採取できないこともあった。 顕微鏡で観察しても、 何がなんだかわからず、 文献を参考にしても意味不明。 泣きたくなることも一度や二度ではなかった。 それでも自分でやるしかない。 今見返しても、 一年生で三十二種の魚を調べられたことは、 我ながらよくやったと思う。
二年生でも引き続き魚の年齢を研究した。 一年生の時のデータは、 少し頼りないような気がして、 毎年続ければ正確性も上がるのではないかと思った。 さらにうろこも観察して、 年齢の相違がないか調べてみることにした。 耳石の採取は慣れたもので簡単に感じたが、 うろこで問題発生。 うろこの採取は簡単だが、 乾燥すると丸まる性質があることが判明し、 顕微鏡で上手く観察ができない。 そのままでは展示も難しい。 色々調べても解決策が見つからず、 押し花のようにやってみたが失敗。 セロハンテープで挟んでラミネート加工風にすることでどうにか上手くいった。 こんな細かいことも含め、 様々な問題が発生するが、 その都度自分で試行錯誤するしかない。 二年生でも、 こんなことやらなければよかったと何度も思ったが、 完成するとやりきった心地よい疲れを感じることができた。
いよいよ最後の労作展、 行動制限が解除されたので、 ついに自由に釣りができる。 毎回楽しみに計画を立てたが、 釣りは天候に影響を受けるため、 予定していた日が当日になると、 海は大荒れ、 台風、 雷、 何があるかわからない。 学校や部会活動で他の日にずらすこともできず、 大雨の中釣りをしたこともある。 当然だが、 何匹釣れるかも終わってみなければ分からない。 今まで魚を購入していたことがいかに楽なことだったかと痛感した。 しかし、 一年生の時にやりたかった釣魚を研究することができ、 達成感を味わうことができた。
毎年、 実際に始めてみると想像以上に難しく、 きりがない。 次々と問題は出てくるし、 これという解決策もない。 ただひたすらに解剖、 観察、 スケッチを繰り返し、 文献を参考にして自分なりに考察するしかない。 毎年提出日の前日までかかったが、 終わっても毎回疑問が残る。 労作展は見るとやるとでは大違い。 まさに労作だった。
普通部生となって労作展を見ると、 素晴らしい作品の数々も、 すごいという率直な感想も小学生の時と変わらないが、 すごさの裏に想像以上の苦労と努力があることを考えずにはいられない。
三年連続受賞できたことは、 誰より小学生の僕に伝えてあげたい。 きっと彼には信じられないと思うが。