労作展

2023年度労作展 受賞作品

社会科

怒濤の3か月間

1年N.Y.君

 労作展当日の朝、 教室に入ると、 僕の論文に賞の札が付いていた。 思わず、 「よし!」 と声を上げ、 小さくガッツポーズをした。 普通部と言えば労作展。 入学前から、 3年間で一度は賞を取りたいと考えていたが、 1年目にして、 その念願が叶ったのだ。
 6月初め、 「社会の論文で100頁以上は書く!」 そんな途方もない目標を立てた。 これまでレポート用紙数枚程度しか書いたことがなかった僕が無謀ともいえる目標を立てたのは、 「大学の卒論で100頁くらいは書いたかな。」 という父の何気ない言葉に闘争心を燃やしたからだ。
 じゃあ何を書くか、 まずテーマ選びから始まった。 労作展と言えば何か一つのことを追究するイメージだ。 誰かと被らないテーマがいい、 やるからには人のためや社会のためになることがしたい、 僕にしかできないことは何だろう、 数日間、 悩みに悩んだ。
 僕には、 弱視 (眼鏡などをしても視力が十分に出ない状態) の視覚障害を持つ弟がいる。 弟は、 学校や駅の下り階段を降りる際にとても怖がってしまう。 そんな弟のために何か僕ができることはないか、 そういえば、 駅や道路の点字ブロックはきちんと整備されているのかなと考えた。
 母によると、 盲学校では、 生徒の保護者が毎年最寄り駅から学校までの通学路の点字ブロックの不備や破損を調査しているという。 しかし、 学校の送迎バスの停留所がある駅の周辺までは、 調査の手が回っていないとのことだった。
 それならば、 僕がその駅周辺の点字ブロックを調査して、 管理者に要望書を出すことで改善されれば、 弟や弟の友達のためになるし、 駅を利用する視覚障害者の方々のためにもなるはずだと考え、 「点字ブロックの調査と研究」 というテーマを選定した。
 テーマは決まった。 土木事務所などに要望書を出すことも決めた。 でも、 まず現地調査をしないといけない。 要望書を作らないといけない。 要望書も出すだけではダメで、 修繕結果を確認しなければ意味がない。 その後に論文を100頁以上書かなくてはいけない。 それも9月までに。
 7月には初めての期末試験がある。 そのあと、 林間学校も、 海浜学校も、 サッカー部と生物部の合宿も、 キャンプ教室もある。 どれも参加したい。 「時間が足りない。 でも、 やるしかない。 絶対やってやる。」 自分を奮い立たせた。
 現地調査は点字ブロックに沿ってとにかく歩いた。 点字ブロックの破損部分に矢印を置き、 写真撮影をする僕を不思議そうに見る歩行者の目線が気恥ずかしかった。 要望書作りも悪戦苦闘した。 使い慣れないワードとパワーポイントを使って試行錯誤しながら地図と写真を貼り付けていった。 その作業も段々と楽しくなり、 目標どおり7月中旬までに完成させることができた。
 7月下旬、 土木事務所に要望書を提出した。 家族や先生以外の大人と話をするのは緊張した。 でも、 「たくさん調査してくれてありがとう。」 「作ってくれた要望書は、 とても分かりやすかったよ。」 と言ってもらい、 とても嬉しかった。
 後日、 再び現地を訪れると、 いくつもの点字ブロックが新しいものに交換されていた。 「やった!」 サッカーでゴールを決めたときのような気分だった。 苦労して調査したかいがあったし、 弟や弟の友達だけでなく、 視覚障害者の方々のために少しでも力になれたかなと思う。
 9月の提出期限のギリギリまで毎日コツコツと論文を書いていった。 「読み手がスラスラと読みやすいように、 分かりやすく丁寧な表現で。」 を心がけ、 論文を書き上げた。 最終的には144頁。 当初の大それた目標どおりの大作になった。 怒濤の3か月間。 忙しくも充実した中1の夏だった。
 講評では、 「社会的な意義も果たした作品」 と評価され、 とても嬉しかったし、 労を尽くして調査・執筆したかいがあったと思う。 来年以降も、 賞の連続受賞を目指しつつ、 「僕に出来ること」 「僕にしか出来ないこと」 を探求し、 自分なりの作品作りをしていきたいと思う。