労作展

2022年度労作展 受賞作品

英語科

Fantasyの追究 小説The Lost Shadow & 「魔法」の考察

3年S.E君

 ついに、僕にとってこれで最後となる労作展が終わった。これまでの締め括りとも言える今回の作品は、一年次に書き始めた小説『The Sword of Unity』の最終巻である『The Lost Shadow』に加え、ファンタジー文学と魔法についての研究レポート、さらに英詩にも挑戦したことで、例年以上に時間に追われる制作となった。
 作品はゼロからは生まれない。三年間、小説の執筆に取り組み続けてそう感じる。良い作品を書くためには、作品の主題が世界観の形成に大きく関わる、言わばインスピレーションの源泉に多く触れることが必要不可欠である。
 これは、ファンタジー文学の巨匠らにおいても同様だ。研究レポートに取り組む中で、名だたる作家達の作品には必ずと言って良い程、神話や伝説、民話、宗教、思想等による影響がそのベースにあると分かった。そして、僕にとっては彼らの作品こそが、創作の土台だ。様々な作品に触れ、その世界観を味わい、表現技術を学び取ることで、自分の作品のアイディアや表現も広がる。
 また、創作活動においては、自ら積極的に調べ、考察することで得た知識も重要だ。研究レポートを制作した背景には、第一巻、第二巻を書く中で、「魔法」を描く難しさを痛感した経験がある。そもそも魔法という概念への理解が曖昧であり、また、安易に魔法を物語に登場させることには、様々なストーリー上の矛盾が生じるリスクがあった。そのためこの二冊ではさほど魔法を描けず、それが第三巻の執筆にあたっての大きな課題だった。そこで、執筆の前にレポートに取り組み、歴史上実際に人々が信じた魔法とファンタジー文学における魔法、そして両者の関係等について研究し、理解を深めた。第三巻を書いた際にはその知識が大いに役立ち、ファンタジー小説を書く醍醐味を味わえた。
 それまでは鑑賞専門だった英詩についても、基本から学んだ。すると、英詩には思っていた以上に様々な種類や複雑な決まりがあると分かった。それらについての知識がなければ、詩を書くことはできなかっただろう。
 一方、今年度の制作で常に葛藤し、苦心し続けたものもある。理想と現実のギャップ、すなわち、自分が目指す文章と、自分の力量の差だ。理想を言えば、情景や登場人物の言動、心境などを単に読者に伝える情報伝達手段としての英文から脱却し、自分ならではの表現で文学的な文を繰り出したい。しかし現実は、書いた文を読み返しては納得がいかず、もどかしさを感じることの繰り返しだった。ただ、第一巻と第三巻を比べれば、確実に表現力は成長しているとは思う。自分の限界を容赦なく突き付け、同時にその先にある可能性を垣間見せてくれるのが労作展だ。
 入学直後、三部作の長編小説を書くと決めた日以来、絶えず制作と向き合ってきた。その長い道のりもこうして終着点を迎えた今、「寂しさ」や「安心」という言葉では表しきれない、何か静かな納得のようなものが心にある。
 試行錯誤を重ねながら、ひたすらすべき作業をこなし、長編シリーズを完結させ、三年連続で受賞するという結果も残せた。これ程の時間と労力を費やし、一つのことに打ち込んだ経験は、この先も僕の糧となるだろう。
 小説の執筆は、これからも続けようと思う。良いものにたくさん触れ多くを学び、感性を磨いて書くことを究めたい。特に、今後は海外を訪れ、知見を広げたいと思っている。受験生活が終わると同時に始まったコロナ禍のおかげで、僕は未だ国境を越えられていない。
 「物語の中で魔法の森に出会うと、現実にある全ての森に少しだけ魔法がかかる」
 かのファンタジー作家、C.S.ルイスの残したメッセージだ。物語を読んだ後に周りの景色の見え方が変わり、隠れた神秘や魅力に気づかされることがある。いつか自分もそんな力のある物語を書きたい。それを目指して、小説を読み、書き続けていこうと思う。