労作展

2022年度労作展 受賞作品

技術家庭科

自作エンジン付キックボードでナンバー取得を目指す

3年T.D君

 労作展三年目の挑戦は、実用性との戦いだった。公道を走れる自作バイクの製作。このテーマを実現するため、僕は三つの障壁に挑んだ。一つ目は動力であるエンジンの取得、二つ目はエンジンと車体をどう繋げるか、三つ目は公道走行に必要なナンバープレートの取得だ。
 まず一つ目の障壁だったエンジンの取得について、父が幼少期に遊んでいたポケバイが祖父の倉庫に眠っていることを知った。三十年以上放置されていたポケバイであったが、奇跡的にエンジンがかかった(すぐに止まってしまう状態であり、後にキャブレターの清掃が必要になった)。これでエンジンはなんとかなった。
 次の障壁は、エンジンと自転車をどう繋げるかだ。しかし、どうしてもポケバイのエンジンを自転車に乗せるイメージが湧かなかった。ポケバイの形状を眺めていると、自分が小さいころ乗っていたキックボードの板の上ならポケバイの車体が乗るのではないかと思った。キックボードの板の上にポケバイの車体を乗せ、ポケバイの後輪をそのままキックボードの後輪として活用するというアイデアだ。ここで問題となったのは、キックボードとポケバイをどう繋げるかだ。これにはどうしても溶接作業が必要だという結論になってしまった。しかし自分には溶接の技術も道具もない。こうなったら、溶接工場に持ち込んで溶接をお願いするしかないと思った。
 ネットで溶接の会社を調べ、問い合わせをするも断られ続けた。最後の手段として、僕は自宅近くの溶接工場へ出向き直接交渉することにした。一つ目の工場は倒産してしまっており不安になったが、二つ目の工場では社長の方が直接話を聞いてくれ、週末であれば協力して頂けるとの回答を得た。それから、毎週末何度か通いつめ、溶接会社のご協力を頂きながら、ポケバイとキックボードの一体化に成功した。
 最後の障壁は、ナンバーの取得である。ナンバー取得に必要なものは主に四つで、①車体の全体を示す写真、②公道を走る為の保安部品の確保、③エンジンスペックを示す詳細データ、④固体(車体)を識別する車体番号、とのことであった。一つ目の写真は問題なかったが、二つ目の保安部品にはかなり苦労した。保安部品と一言でいっても、ホーンからバックミラー、ヘッドライト、テールランプ、方向指示器、など部品が多岐に渡るのと、細かな設置条件などもあった。
 何とか保安部品の条件をクリアしたところで、次の難関はエンジンの詳細データであった。なんといっても三十年前の遊具であるポケバイのエンジンである。詳細データなど存在せず、エンジンに刻印されていたメーカーをネットで調べ電話をすると、なんとそのメーカーは農機具メーカーであり、エンジンは芝刈り機用のエンジンであることが判明した。事情を説明し詳細データを聞いたところ、三十年以上前のエンジンであり、データが残っていないとのことであったが、当時のエンジンで同等のエンジンがあり、そのデータが活用できることを教えてくれた。
 エンジンの詳細データが入手できたところで、最後の障壁は車体番号であった。市役所の担当の方に、車体番号が無くて困っていることを相談すると、「エンジンの固体番号はないか」 と確認された。幸いエンジンには固体番号が刻印されており、エンジンと車体が溶接で一体となっていることから、このエンジンの固体番号を車体番号として登録しようということになった。最後は担当者の方のアイデアと協力に救われた。
 すべての書類やデータを集めるのに苦労したが、それらをまとめ担当の方に提出すると、十分程度で新品のナンバープレートを担当の方が持ってきてくれた。これが念願の公道を走れるエンジン付きキックボード完成の瞬間であった。
 三年間の労作展で一番学んだことは、コミュニケーションの大切さだ。僕自身、コミュニケーションが得意な方ではないが、熱意と行動力があれば、必ず協力してくれる人が現れた。
 僕は、三年目になってようやく、積極的に色々な所にアイデアや協力を求められる様になった。これが僕の三年間の労作展を通して得た成長だと思う。