労作展

2022年度労作展 受賞作品

音楽科

J.S.バッハ「シンフォニア」の考究

2年H.T君

 普通部に入学して二度目の労作展が終わった。一段落したこの機会に、今回の作品制作を自分なりに振り返ってみようと思う。
 一年生の時は、僕が通学の時にいつも使用している、東京メトロ南北線の発車メロディーについての作品を出して、鎌田先生から「クラシックの曲の演奏もきいてみたい」という講評をいただいた。僕に、そういった期待をして下さるのが嬉しく、労作展後すぐに来年も音楽科の作品を出品しようと決意した。発車メロディーのアナリーゼをした時、和声分析等で苦労したことから、楽典をしっかり学ぶ必要があると考えた。そのためには音楽の根幹のバロックを、音楽の父とよばれるバッハの曲を、選んで研究しようと思った。偉大な作曲家バッハの曲は難しいものばかりで、選曲の際にとても悩んだ。その結果、過去に数曲弾いたことのある、「シンフォニア」という十五曲のまとまった曲集に挑戦することにした。こうして、張り切ってまずは曲のアナリーゼに取り組み始めるも、最初は歯が立たずに断念。アナリーゼのための文献を探して読むことからやり直した。去年勉強した音程の理解だけでは足りず、悔しかったが、楽典を学び直した。また、バッハの音楽は教会音楽であり、宗教と結びつきが深いので、シンフォニアに流れる宗教的な感情を理解するために、キリスト教についても少し学んだ。文献を読み進めるうちに、バッハは音楽修辞学の技法を作曲に用いていたということがわかり、さらに音楽修辞学についても学ぶ必要が出てきた。このために必要な文献を探すのにも、探してきた膨大な量の文献を読むのにも、ものすごい時間と労力を費やした。こうして、やっとアナリーゼ開始(再開)。まだまだ演奏には本格的にとりかかれない。譜面はたやすく見えるので、全曲弾くのも楽勝だと最初は思えたが、学べば学ぶほど、弾けば弾くほど難しさを感じるようになる。一音鳴らすにも神経質にならざるを得ず、コンクールやレッスンで時代の違う他の大曲を何曲も練習する必要があり、すっかり参って投げ出したくなることもあった。テストやコンクール期間はシンフォニアとは少し距離をおいて、音源を聴いたり、文献を読んでアナリーゼを追加したり、のんびりと進めることにした。テストが終わり、もうすぐで夏のコンクールという時に新型コロナ罹患で、コンクールを欠場せざるを得なくなる。そこから猛烈にシンフォニア一筋ということで、演奏に取り組んだ。演奏のスタートがやはり少し遅れて、締め切り一ヶ月前からはかなりやっつけ気味になってしまった。労作展を終えた今、振り返ってみても、一年近くかけた作品だったのにもかかわらず、アナリーゼに時間をかけすぎて、当初の目的だった「アナリーゼを生かした演奏」にたどりつけなかったのが本当に残念だった。アナリーゼで知った、バッハの思いをのせて音楽を奏でたかった。こういった後悔も残るが、自分で決めた、最初からできるかどうかすら分からない目標に最後まで向き合い続けることができたのは本当に良かったと思っている。シンフォニア全曲にチャレンジするという僕の無茶にも喜んで手を貸して、応援して下さったピアノの先生、労作展コンサート開催のために尽力して下さった鎌田先生、コンサート当日、リハーサルから演奏を聴いて、応援して下さった担任の中川先生、励ましてくれた先輩後輩仲間のみんなと僕を見守ってくれた家族にここでお礼を言いたいと思う。
 本当にありがとうございました。