労作展

2022年度 受賞作品

社会科

富嶽四十六景を探せ!〜富嶽三十六景は今〜

3年S.R君

 九月二十五日、労作展。自分の作品に賞の文字を見つけた僕は安堵した。三年連続受賞だ。これでプレッシャーから解放された気がした。しかし、その日に地理研究会の仕事を終えて帰ろうとした時、今井先生からこの部会誌の話を耳にして、またプレッシャーが襲ってきた。でもせっかくの機会だ。任された大役を全うすべく、三年間の労作展を振り返ろう。
 僕は小さい頃から鉄道好きで、普通部に入学したら労作展でも絶対に鉄道に関することをすると決めていた。テーマも「地方の廃止路線」とまで決めていたのだが、入学した年は残念ながら新型コロナの影響で地方へ長期間調査に行くのは困難だった。鉄道以外に興味のあるものは何か。思い浮かんだのは小学校で取り組んだ自由研究だった。テーマは「暗渠化されている緑道」であった。その時は近所を通る川跡に造られた緑道を中心に調べたのだが、その脇に延びる怪しげな細い道を見つけ、それ以来ずっと気になっていた。結局それも暗渠で、それからはすっかりその不思議な魅力の虜になっていた。そうして初の労作展のテーマも「暗渠」に決め、コロナ禍での運動不足解消のウォーキングも兼ねて近所の暗渠を探し、地図にまとめた。二回目の労作展でも、暗渠を基に周辺の昔の様子を再現し、幸運にも二年ともに受賞することができた。
 そして迎えた今年の労作展、テーマ決めではかなり迷った。三年連続受賞のプレッシャーもあり、なおさらだった。三年間同じものに取り組む方が評価は良いようだが、もう「暗渠」で取り上げたいことは多くはなかった。締め切りの間際まで悩んだが、二回の労作展を経験して本当に自分の興味があることでなければ楽しみながら研究をできないと分かっていたこともあり、最終的には賞をもらうことよりも本当に今の自分が興味のあるテーマを優先することにした。そこで、大好きな富士山を眺めながら様々な場所を廻ることのできそうな葛飾北斎の『富嶽三十六景』に決めた。テーマを提出した後に富嶽三十六景は本当は四十六景あること、一・二年の時は地理分野だったが、今回は歴史分野となり最後に手書きの論文が待ち受けていることを知った時には、完成までの道のりが想像したよりも遥かに長く感じ、正直不安になったが、そこはむしろ最後の労作展に相応しいのではないかと前向きに考えて気を取り直して夏休みに入ってから実際に調査を始めた。
 北斎の描いた作品の題名や絵の中のヒントからその場所を探し現地に行ったのだが、特定するのが難しい場所が多かったり、夏特有の雲に阻まれて富士山が見えなかったりと苦戦することも多かった。その時は、一度で諦めることなく連日同じ場所に行った。また、時には現地の方にお話を聞き、近くの図書館で文献も調べた。天気予報や各地のライブカメラを確認するのもいつしか日課になった。夏休みはほぼ労作展のために費やしたと言っても良い。気が付けば原稿は二百ページを超え、書き終わったのは締め切りギリギリだった。まさに労作と言える今回の作品は、自分でも一番納得のいくものとなり、もう賞をもらうことができなくても良いとさえ思った。結果として今年も受賞することができたが、それは親切にしていただいた現地の方々、そして連日調査に付き合ってくれた家族の協力のお陰でもあり、本当に感謝している。
 労作展はその名の通り、本気になればなるほど、深く追求すればするほど、とてつもない労力を要する。それを乗り越えるためには、本当に自分が楽しむことができるテーマが相応しい。堂々と一つのことに本気で夢中になれる貴重な機会、それが労作展だった。