労作展

2022年度労作展 受賞作品

書道科

草書に挑む〜臨書「十七帖」〜

3年K.Y君

 手本の特徴を捉えながら作品を自分のものにする。これは簡単なことではない。だが、この夏の自分の努力は、それを少し可能にすることができた。
 最後となった今回の労作展。一昨年、昨年は楷書、行書の作品を展示したので、今年は草書に挑戦したいと思い、草書の古典作品の中から 「十七帖」 に決めた。これは書聖とも呼ばれる王羲之の作品だ。昨年も王羲之の作品を書いたので、少し書風が似ており、そして圧倒的な美しさからこれを選んだ。実は昨年の労作展の後に僕は悔しさを感じていた。二年連続で賞は取れたものの、自分の作品にあまり納得できなかったからだ。次は自分の理想の作品を書き、そして特別展示を目指そうと考えた。今回は二枚作品を展示する事に決め、そしてこれまで挑戦したことのないサイズである二×六尺に書すことに決めた。
 まず、十七帖の特色を把握するために分析を行った。全体の筆運びや形について大まかな分析をしてから、一文字ずつの特徴の分析を行った。次に半紙練習をした。このまま順調に進むと思ったが、ここで大きな困難を迎えることとなった。初挑戦である草書や十七帖の特徴を捉えて書けなかったからだ。これまで楷書を主に練習してきた僕にとって、草書ならではの緩急や流れるような筆致を体現することは難しかった。書道人生でここまで自分の力のなさを感じることは初めてだったため、作品を労作展までに仕上げられるのか非常に心配になった。だが、この状況で僕を支えてくれたのが字の分析プリントだ。字の特徴を記したこのプリントを見ながら練習していき、徐々にではあるが上達していった。やはり労作展は工夫が大事だと改めて分かった。
 次に二×六尺紙に練習を行った。昨年までは半切に書いていたが、今年はそれのはるかに大きい紙に臨書することに挑戦した。最初にこのサイズを見た時、その大きさに圧倒された。これによって書く文字の量も増えるため、集中力が大事だと考えた。しかし、僕は一枚目から苦労することとなった。半紙練習で上達した字をこの紙に書けず、さらに三行となったことによるバランスの取り方の違いにより、見るに堪えない作品しか書けなかった。必死に一字一字美しく書こうと思っていると、字は綺麗になっても作品としては良くないものになってしまった。これが作品を書くことの難しさだとまた知ることになった。ここで、僕は作品になったときのバランスや空白の特徴を記し、さらに一枚書き終えたら良くなかったポイントを挙げ、次の修正に繋げていった。半紙練習と同じように少しずつではあるが改善されていった。そして、期限が迫っている中、最後の一枚に書した。もうミスはできないと体中に緊張が走った。だが、この夏に練習した半紙たちが僕を支えてくれた。夏の五十日を字に込め、理想の作品に辿り着くことができた。僕は達成感より、作品が終えられないという心配がなくなったことへの安心感が大きかった。
 最後となった今年の労作展は、初めてである草書、紙のサイズに挑戦したが、これまでとの書風の違いに非常に苦労した。だが、試行錯誤をし、思考し、工夫するのが労作展だと改めて感じた。自分が納得できる一枚になかなか辿り着かず、終わりがないように思えて苦しかった。でも、毎日コツコツ努力して、一つのことに没頭し続けることの大切さ、面白さに気付かされた。結果、三年連続で賞、初めての特別展示を受賞することができ、非常に嬉しい。苦難を乗り越えるために工夫して努力する労作展は、自分を成長させてくれる最高の機会だった。