書道科
「乙瑛碑」臨書
3年E.M君
去年僕は友達に衝撃的な言葉を言われた。「労作展、書道って楽じゃね」その言葉に僕は反論できずにいた。確かに書道は書くだけと言ってしまえば書くだけだ。どこまで追求するかも自分次第。その点、他の教科は終わりが目に見えて分かる。その友達に「同じ文字書くだけじゃん」とトドメの一撃を食らってしまった。僕の中では頑張って取り組んでいたので悔しかった。来年は友達を納得させるような作品を作る。そう決意し、去年の労作展は幕を閉じた。
蝉の声が聞こえる。暑い。本当に暑い。納得させようと意気込んでからもう十一ヶ月が経ってしまった。作品を表装してもらうために、他の教科よりも作品を書き上げるのは、早くしなければならない。これを早く終われると吉だと捉える人もいるが、今の僕にとってみると凶でしかない。後三日で完成させなければならないのだ。今まで書いた中で納得のいく作品は、ない。むしろ去年の方が早く終わっていた。僕は今年、半切二枚に作品を書くことを決めた。去年は一枚だったため、単純に倍になるだけではなく、二枚書き上げる集中力、二つ揃っての統一感など大変なことがより増えていく。そのせいか、去年より完成が圧倒的に遅くなってしまっている。想像以上の時間のなさに焦りつつも、僕は朝、昼、晩ひたすら書き続けた。親からもアドバイスをもらい、また書く。半切を折ることがとても面倒くさく感じる。もう半紙五百枚以上、半切百枚近く書いているため、辛い。途中まで良かった作品は必ず最後何かしらミスをする。この夏の疲れがグッと手にのしかかってくるが、気持ちで筆を進めていった。
出来た。良い作品が出来た。全ての字がまとまっていて、大きく、堂々とした作品に仕上がった。ここで大きな第一関門をようやく突破した。少し乾かしてから第二関門に向かうことにする。
第二関門、それは落款だ。作品が出来た後、最後に名前を書き、雅印というハンコを押すことだ。一見本文を書くより簡単そうだが、これがとても大変なのだ。まずは名前。いつも通り書けば大丈夫。そう自分に言い聞かせ筆を持つ。半切に近づけるとものすごく手が震えている。上に書かれている文字を見ると、ミスが出来ないというプレッシャーに押しつぶされていく。去年もここで先生からもアドバイスを頂いていたため、よりプレッシャーがかかってきた。この夏の挑戦が終わりにさしかかっているところで、最大の難所。暴れている筆を落ちつかせ、書き進める。やっとのことで雅印に持ち変えることができた。去年は斜めに傾いてしまうという大失態をおかしてしまったので、本当に慎重に位置を合わせる。上下左右、角度、高さを決め、何も考えず落ろすだけ。出来上がった。第二関門も無事クリアできたのだ。終わった後はまさに解放感に浸っていた。
ザーザー、ゴロゴロ。なぜこういう日に限って大雨が降るのか。昨日、表具店から電話が掛かり、表装が終わった旨の連絡を頂いた。嬉しさと早く見たいという衝動に駆られ、連絡を受けた翌日に取りに行くことにしたが、この雨。変えても良かったが、雨が嫌という気持ちより早く見たいが勝ってしまったため急いで向かった。見せてもらうと、緑とオレンジの軸により、さらに堂々としている作品がそこに飾られた。僕は思い出の詰まった作品を手に、普通部へ向かう。書道科を代表し、去年のリベンジを果たしにいく。