労作展

2021年度 受賞作品

音楽科

自作チェロで弾くバッハ無伴奏チェロ組曲第3番

3年A.Y君

 去年の労作展でチェロを作った。 そして、 今年の労作展ではそのチェロを弾く。 これは僕にとっては、 チェロを作る、 と決めたときからはっきりと決めていた理想像だった。 友達からは、
「今度は何作るの? ヴァイオリン?」
など散々聞かれ、 僕はその度に
「去年作ったチェロを今年弾く」
と答えていた。
 そして僕にはもう一つ決めていたことがあった。 それは、 バッハを弾くことだ。
 ヨハン・セバスチァン・バッハ。 僕が一番好きな作曲家であると共に、 彼の曲は僕がチェロを作るときに大いに助けてくれた。 というのも、 僕はチェロ作りできつかった粗削りなどの作業のとき、
「このチェロはどんな音になるかな。」
とバッハの曲の中でも一番好きな 「無伴奏チェロ組曲第一番プレリュード」 を、 完成した自作チェロで弾いている姿を想像しながらチェロになる木をカンナで削っていたからだ。
 さて、 自作チェロでバッハを弾くという、 壮大な夢は叶った。 今度はそれを労作展で弾くための練習が始まった。 正直言って、 これは普通のチェロで弾くより難しい。 なぜなら、 (これはあまり言いたくはないが) 自作チェロは、 いくら労作展で頑張ったとはいえ、 所詮中二の素人が初めて作ったものだ。 人生をかけてチェロ作りを職業にしている楽器職人にはとうてい及ばない。 特にその差が出るのはその機能性。 チェロの音程は一ミリずれただけでかなり変わってしまい、 そのため指の感覚というものが非常に重要だ。 しかし、 そこまで完璧には滑らかに削れない僕がやると指板の裏側の親指が当たる部分が少し凹凸してしまいとても気になる、 という事態が発生してしまう。 僕の名誉のために言っておくと、 これは本当に細かい所である。 見てもわからないくらい、 触ってみて何となく感じるくらいのことだが、 いざ弾こうとすると途端に気になる。 チェロはそれくらい繊細なのだ。 少し話がそれたが、 弾くとどうしても気になる機能性を改善すべく、 練習と改良作業が並行して行われた。 駒を新しく作る、 エンドピンを切って短くする。 糸枕のカーブをなめらかにする、 などなど色々なことをやった。 夏休みに入ると、 午前チェロの練習、 午後チェロの改良作業という毎日。 チェロ作りに一日かけていた去年の夏休みと変わらないではないかと思った。
 そして楽曲分析。 僕はバッハについて詳しいという自信を持っていたのでこれは余裕だろう、 と思っていた…がしかし、 楽曲分析についての文献には作曲の時代背景などはあまり載っておらず、 どちらかというと和声についてことこまかに書いてあるだけで、 全く面白いとも思わなかった。
「もう、 バッハについてだけで埋めよう。」
と僕が思ったのも束の間、
「最後の労作展なんだから悔いなくやろう」
という気持ちがあったことを思い出し、 結局文献を何冊も読み通して一から勉強した。 そんなことをやってからバッハを弾くと、 なぜか自分の中で曲全体をスッキリとまとまりがあるように弾けた。 ああ、 これが楽曲分析を先生がやらせる意味かー、 と思った。 と同時につまらないと思った自分がものすごく恥ずかしくなった。
 チェロとバッハ。 去年と今年で追求してきた僕の二年間の労作展を表した大きな意味を持つ言葉だ。 先ほど言った通り、 自作チェロは今でも改良を続けている。 そして、 バッハの演奏は完成というものがない。 この二つの共通点はなんだろうか。 そう、 完璧を求めれば求めるほど完璧がなくなる、 ということだ。