労作展

2021年度労作展 受賞作品

国語科

津軽弁の研究〜方言の衰退〜

3年I.O君

 私は入学試験の面接で、「普通部に入ると労作展という行事がありますが、あなたは労作展でなにをつくるつもりですか」というような質問があったことを覚えている。私はその時から労作展のテーマを決めていた。そう、津軽弁の研究である。
 私の母の実家は青森県にある。小さいころから毎年のように帰省していたが、祖父母はどうやら違う言葉を話していると思ったのは小学校低学年の頃だ。私の両親が話す日本語とまるで違う。共通語を話す私たち関東地方の人々は、私の祖父母が話す津軽弁を理解できないに違いない。私もそのうちの一人だからだ。今の時代は協調が重要だというし、方言は他地方の人々とコミュニケーションをとるのに大きな障害となるのは明らかだ。そのせいか、方言は全国的に衰退していっている。実際、祖父母と叔母さん夫婦、いとこの三世代が話す津軽弁はそれぞれ全く異なっていて、若い世代のほとんどが共通語で話しているのは明確だった。この実態を目の当たりにしたとき、私は津軽弁の実態を保存しなくては、と思ったのである。
 そこで研究をはじめた一年目、言語学の研究という恐ろしく大きな壁に当たってしまった。どこから始めていいかわからず、中途半端で雑な研究となってしまった。分量においても、他の国語科の作品と比べて圧倒的に少ないものとなってしまっていて、とても労作とは言えない作品だった。
 二年目は去年のとても労作とは言い難い作品を反省し、集められた単語から文法や発音に焦点を絞って研究することにした。途中、コロナ禍で帰省できないというアクシデントにも見舞われたが諦めずになんとか解決策を見出だして、音声データを集めた。苦労の連続であったが、こうして出来上がった作品は初めて賞を受賞できた。
 そして三年目。私は方言が衰退しているということを肌で感じたため、この 「津軽弁の研究」を始めたわけだが、方言の衰退が、どれほど早く起こっているのかについて、 深く把握していなかった。そこで、今年は方言の衰退にテーマを移して研究することにした。先行研究を分析すると、ほとんどがアンケート調査を行っていた。私もやろうと決めたが、コロナ禍で帰省できないという最悪の事態に備えて、普段から授業で使っていたグーグルフォームを使うことにした。これは日常生活で得られたアイデアだ。しかし、フォームで集まったエクセルデータをグラフにする方法がわからず立ち止まってしまった。それでも、私は二年生の時と同じように諦めずに解決策を探し、なんとかグラフを作ってデータを分析することができた。ページ数にしても十ページ。今年も去年に引き続き、賞を取れた。
 三年間、津軽弁について研究してきたが、やはり祖父母が話すような難解な津軽弁が廃れていくというのは少し寂しい。三年目の方言の衰退に関しての研究では、津軽弁は若い世代で全く使われず、伝承されていないということが浮き彫りとなった。言葉というのは、若者言葉に代表されるように、いつの時代も変化してゆくものだから、 方言が廃れていくのはある意味仕方のないことなのかもしれない。しかし、この三年間で津軽弁の実態を詳しく記録したことで、方言や言葉、言語に関する新たな知識を得られたのは非常に嬉しく思う。
 三年間続けた津軽弁の研究で得られたものは知識だけではない。この三年間にも及ぶ労作展で、私は解決力をも得られたと思う。どんな困難に当っても、私は津軽弁の実態を記録するという目的を忘れず、頭をフル回転させて問題を解決できた。三年前の私なら、問題にぶつかった途端に諦めていたことだろう。諦めず、ひたすら考え続ければ問題は解決する、そんなことも得られた労作展での経験は、一生の宝物となるに違いない。