技術家庭科
鉄道愛
1年H.T.君
僕は鉄道が好きだ。労作展で何をするか迷っていたとき、真っ先に思い浮かんだのも鉄道だった。では、鉄道で何をするか——ふと頭に浮かんだのは、祖父の話にあった「木の電車」だった。祖父はよく「昔の西武線は木造の電車が走っていたんだよ」と話してくれた。その言葉が胸に残っていた僕は、手に取りやすく加工もしやすい「爪楊枝」を使い、木造車両を再現することにした。爪楊枝の細かい木目や温かみは、木造車両の雰囲気を表現するのにぴったりだと感じたからだ。誰もやったことのない素材で挑戦することに、子どものころのワクワクが戻ってきた。
最初の壁は、再現したい車体:武蔵野鉄道デハ310形の情報がほとんどないことだった。それらしい写真があるだけだ。しかし、調べるうちに、武蔵野鉄道開業百十周年を記念した企画展が石神井公園で開かれていることを知り、足を運んだ。会場にはデハ100形や130形の復元模型が展示されていたが、どちらも僕が惹かれた車両とは違っていた。学芸員の方に話を聞くと、木造車両に関する詳しい資料は少なく、鉄道会社にもほとんど残っていないとのことだった。それでも希望はあった。模型を作るメーカーの名前を教えてもらえたからだ。さっそく問い合わせると、プロの模型でも想像で補っている部分があると教えてくれた。資料が少なくても、情報を集めて自分なりに解釈し、丁寧に形にすることは成立する。正確さにこだわりすぎて動けなくなるより、わかる範囲で再現することを選んだとき、製作への不安は薄れていった。
製作は根気のいる作業だった。爪楊枝を何度も切り、接着しては削る。指先は痛くなるほど疲れたが、少しずつ車体の輪郭が見えてくるたびに楽しくなった。特に苦労したのは車両前面の窓位置のバランスや、爪楊枝の微妙な太さの違いによる歪みを直す作業だった。何度も差し替えを繰り返しながら、なるべく真っ直ぐ組み上げたことで、完成後の姿に満足できた。内部のシートや荷物置き、客室ドアの意匠や採光窓など外装の細部にもこだわり、当時の木造電車の雰囲気を少しでも忠実に再現しようと心を込めた。そして完成したときの達成感は忘れられない。初めての労作展でここまで作り上げられたことに自信も芽生えた。搬入の日、友達から「これは賞じゃない?」と声をかけられたとき、誇らしさが胸に広がった。労作展を歩きながら、来場者が自分の作品をじっと見つめるのを見たとき、「僕の鉄道愛が伝わった」と思い、嬉しさが込み上げた。
この労作展で学んだのは、調べることと作ることのバランスだ。資料が足りないところをどう補うかを考え、学芸員さんや模型メーカーの方に率直に質問することで、新しい視点が開けた。資料探しや企画展に足を運ぶことを通して「歴史は人から人へ伝えられていく」という実感を持てたことも大きい。
特別賞をもらえた理由は、ただ細部にまでこだわり作ったからではなく、「なぜ爪楊枝という素材を選んだのか」「どのように情報を集め再現したのか」が評価されたからだと思う。自分の好きなことをもとに、調べる楽しさと工作の工夫を重ねたからこそ、人に伝わる作品になったと思う。
これからも鉄道をもっと知りたい。次の労作展では、何をしようか。今回見つけられなかった歴史の断片をさらに掘り下げたり、別の素材で現代の車両を再現したりするのもおもしろそうだ。今回の経験は、僕の「鉄道が好き」という気持ちを確かな力に変えてくれた。
