技術家庭科
3Dクロスステッチ
2年W.K.君
クロスステッチとの出会いは幼稚舎四年、祖母が趣味で作品を作っているのを見た時だった。「やってみる?」と聞かれ、「やってみたい!」と見よう見まねで何針か縫わせてもらった。その時は針を持ったことすらなかったので、祖母に教えてもらいながら、今思えばかなり慣れない手つきで縫った。横で見ていると単純で簡単そうだったのに、実際に縫ってみると意外と難しい。やっと一列が完成したと思ったら図案と違う変なところを縫っていた。それを直そうとするとすぐに糸が絡まる。それでも、幾つもの色を使って少しずつ完成していくクロスステッチは、細かい作業が好きな僕に向いている気がした。それから三年間、幼稚舎の作品展ではクロスステッチの作品を出品した。大谷翔平選手、カルビーのポテトチップス、コカ・コーラ。図案には毎年僕の大好きなものを選んだ。
昨年、普通部に入学し初めての労作展。クロスステッチで自分の大好きなものを作りたいという気持ちはあったが、図案は何にするか。壁に飾ってある五年生の時のポテトチップスの作品を眺めながら、「パッケージの裏面も刺繍をして二枚の生地を袋状に縫い合わせたら、立体的な作品が作れるのではないか」というアイディアが思い浮かんだ。そこからは勝手に名付けた「3Dクロスステッチ」の作品にするべく、パッケージはもちろん、僕の大好きなポテトチップスそのものも立体的に製作した。労作展当日、教室に入ると沢山の人が僕の作品に触れながら驚いてくれていた。自分の作品を褒めてもらうというのはこんなにも嬉しいことなのだと初めて知った。
そして今年の夏、僕は今までよりもっと質の高い作品を目指していた。図案は日清食品のカップヌードル。しかし昨年の家庭科の講評にあった「家生活を豊かにする」ためには、もうカップヌードルが好きというだけではいけないと思った。そんな時、今年から入部した山岳部の練習で、先輩や同級生たちが使うあるものを見て、これだ!と閃いた。毎週土曜日に行くクライミングジムでは、チョークと言われる滑り止めの粉を、チョークバックという腰につける巾着のようなものに入れて使用する。大きさもちょうどカップヌードルと同じくらいだ。ということで今年はカップヌードルの形をしたチョークバックを作り、実際に使ってみることを目標にした。図案を作り、材料を買い揃える。ここからはひたすら同じ作業を続けていくだけだ。
クロスステッチの良いところは無心で黙々とやり続けられるところだ。普段の学校生活や部活では常に何かを考えているが、針を刺している時だけは何も考えない。いや、正確には何も考えられないような不思議な感覚になるこの時間のお陰で、ゲーム三昧だった僕の夏休みに心の落ち着きが生まれた。反対に悪いところはストレスが溜まるところ。刺繡に間違いはつきものなので、そうすると無心になれる時間は強制終了、すぐにイライラしてしまう。また、同じ色が連続している時も本当に頭がおかしくなりそうになる。今年はひたすら続く白地獄に苦しめられながらも、なんとか作品が完成した。労作展当日、教室に入って目に飛び込んできた賞と書かれた紙と、裏の赤いペンマーク。僕の夏の努力が報われた瞬間だった。
今回で二年連続の受賞、更に二年連続で特別展示にも選出された。来年は今年の課題であったスケジュール管理やペース配分をきちんと修正すること、そして一歩上の作品を目指し、三年連続特別展示の夢を叶えたい。
