書道科
新たな字体と挑戦
3年Y.S.君
書道には様々な書体が存在している。僕たちが日常的に使っているのが楷書。それを少し、くずしたのが行書と言われているものだ。この二つは授業などで書いたこともあるだろう。比較的なじみのある書体だ。では、「隷書」という書体を聞いたことはあるだろうか。ほとんどの人が聞きなじみのない言葉だと推測する。現に、僕も三か月前までは一度も聞いたことのない書体であった。この隷書という字体は、漢王朝の衰退とともに失われていったと言われており、今ではめったに見かけない字体である。数少ない身近にあるもので、隷書が使われているものとしては、印鑑や日本円の紙幣が挙げられる。今回はそんな初見初耳の書体に挑戦した。
隷書の書体が決まり、書く題材は「曹全碑」と決まった。早速隷書の文字を書こうとしたが、どうしても楷書のような自体になってしまう。その原因は筆の始め方にあった。楷書では、筆を斜めにすっと入れて、鋭くするが隷書では起筆で筆を逆八の字のように丸めなければならない。その後、何度も隷書の癖をなじませた。と言っても、具体的になじませる方法はなく、ただひたすらに書き続けるしかなかった。去年や一昨年ではあまり手にならすという事をしていなかったので、半紙の練習量がかなり増えた。ならすと同時にその文字の特徴や工夫の仕方がわかるようになってきた。隷書の特徴として「波磔」というものがあげられる。右払いのようなすらっとした美しいこの筆法は隷書には欠かせないものである。ただし、最初はその独特なうねりや払い方に苦戦し、美しく書くことが出来なかった。何枚も半紙練習を重ねてようやく感覚がついてきたかと思えば、書道教室の先生に「そうじゃない」と直される日々が続いた。
そこから一か月がたち、隷書にもだいぶなれてきた。そこで半切練習を始めることにした。半切は半紙の何倍もの大きさがあり、縦長で横の幅が少し小さくなるのが特徴である。僕は今回、右列に十文字、左の列に八文字と名前を入れることにした。半切練習では、半紙練習だけではわからなかった難所が多くあった。例えば、文字の配列。基本的に隷書は楷書と違い右と左の列の文字を横に揃える必要がある。そのためどこか頭やお尻が飛び出てしまっていると美しくなくなってしまう。半紙では一文字ずつの練習だったため俯瞰してみた時の文字の配列やバランスの感覚をつけるのにはかなりの時間がかかった。また、中心軸もそろえなければならないので、しっかりと全体を見て書く必要があった。
他には、白の部分のとり方があげられる。ここでいう白というのは文字と文字の間にある空白、字間のことを指す。この時間が狭すぎると窮屈に見えてしまい、逆に広すぎると不格好に見えてしまう。この白のとり方も半切練習でしか分からないものであった。ただし、半紙練習と異なるところは一枚を完成させるのにかなりの時間がかかるというところ。半紙は短時間で何度も練習できるため感覚がつけやすかったが、半切ではかなり時間がかかった。
もう一つ、忘れてはいけないのが名前である。今回は隷書が題材となっているため、名前は楷書ではなく行書を用いた。結太臨という三文字は、作品の締めの部分でもあるため、力を抜かないで書く必要がある。そのため半紙で名前の練習も行った。
そしてついに納得のいく完成品を作ることが出来た。波磔や文字のバランス、字間など隷書や「曹全碑」ならではの特徴を入れ込んで書くことが出来た。
その後無事、賞を取ることが出来た。三年連続で賞を取ることが出来て本当にうれしかった。そして、達成感と余韻につかりながら、メダルケースを貰った。中には黄金に輝くライオンが、静かに佇んでいた。
