社会科
外来種キョンの研究から環境問題を考える
1年Y.O.君
普通部に入学して初めての労作展を経験した。
労作展。慶應義塾普通部に入学を考える者なら誰もが知っている伝統行事だ。当然、僕も知っていたが、新しい普通部生活に緊張の毎日だったので、入学当初は労作展に取り組むイメージをまだ持てていなかった。
今まで見てきた労作展の作品は、自分の「好き」や「興味」を追い求めていた。自分が「興味」のあるもの…。考えてみると、環境問題に強い関心を持っている、ということが思い当たった。自分の住む千葉県の環境問題を調べてみると、特定外来生物キョンに目が止まった。人の手によって海外から連れてこられ、飼育施設から脱出したと考えられているものが千葉県で九万頭にも増えている動物だ。希少な植物などの食害、農業への被害、市街地での生活被害、と様々な問題を今かかえている。
作品制作の計画をたて、資料にまとめるところは順調に進んだ。キョンの生態や被害についてなど、図書館の書籍やインターネット上でわかる確かな情報は全部調べ、まとめるという作業を行った。しかし、それだけではただのまとめ作品である。
そこで、キョンが初めて確認された勝浦市とその周囲の自治体にインタビューをすることを考えた。インタビューは話すのが苦手な僕にとって最も大変な作業の一つだった。僕は、質問を考え、練習するということを繰り返すことで苦手を克服しようと頑張った。各自治体が作成した鳥獣被害防止計画を読み込み、鳥獣被害やその対策について理解を深めるための質問を考えた。また、その中で、自治体だけではなく、有害駆除の現場の猟師さんやキョンの肉を取り扱っている焼肉屋さんの方にも突撃インタビューをして、理解を深めていった。キョンは足が細く、罠を工夫しないとなかなかつかまらない動物であると聞き、キョンの捕獲の技術的問題点だけではなく、行政の制度的問題なども考え、その改善点などを考えていった。
合計七つの自治体、関連施設、お店や千葉県議会議員へのインタビューを行い、ネットなどの情報だけではわからない現場での苦労、非公式の対策などのお話を聞くことができた。七日間に渡り、朝早くに家を出て、各一時間ほどのインタビューを一日に一~二件行った。それぞれの自治体で独自に行われている捕獲方法の工夫、様々な場合における対処法など、貴重なお話を伺い、家に帰って夜に結果をまとめるという労作は、インタビューに苦手意識のあった僕に自信をくれた。また、インタビューの中で、ただ対策について考えているだけではだめだ!と考え、実際のキョンの画像を撮りに、役所の方々にも出没しやすい場所を教えていただき、現地でのキョン観察、といってもキョンはすぐ逃げてしまうのだが、キョンがいた場所などをできるだけ探し、画像を撮り、キョン問題についてわかりやすく説明できるような研究材料を増やしていった。また、狩猟そのものについて調べてみるなど、様々な角度から内容を深めていった。
インタビューの後は、その内容を完全な資料に仕上げて、そこから考えることのできる問題点や工夫をさらにまとめ、インタビューをする前から作っていた資料とともに、どんどん作品を完成させていった。
この作品制作で、一番注目してもらいたいのは、生態系被害についてだ。この環境問題からキョンの問題にたどり着いた。人間による環境破壊について考え、伝え、解決していかなければならない、というのが人類としての責任であると考えている。外来種という存在を知り、少しでも外来種が減り、被害を受ける生き物が最小限になるようになっていく社会ができると良いと考えながら作品を作った。
作品制作は、期日ギリギリまで試行錯誤を繰り返し、自分の中で満足できる作品を完成させることができた。
労作展当日、自分の教室に直行して、賞の札を見た時は喜びと安堵の気持ちでいっぱいになった。先生から、自分の苦手だったインタビューについて褒めていただき、自信につながった。
この作品制作のためのインタビューに協力してくださった自治体及び関連施設の担当者の方々、千葉県議会議員の方、猟師さん、ジビエ料理店の方に心からの感謝を伝えたい。
