美術科
本の世界と絵の世界
3年K.Y.君
僕はずっと本を読むのが好きだった。小さな頃には絵本が大好きで、眠る前にもっと読んで読んでと母を困らせていたらしい。
小学生になると、毎日通学の時間が読書の時間だった。特に好きだったのは推理小説で、片道一時間、満員電車の中でも夢中で読んでいた。今思えば、六年生の美術の卒業制作で、東野圭吾の「容疑者Xの献身」の小説から連想して、檻の中に閉じ込められたような囚人の絵を描いた。他の人に比べたら、ずいぶん暗くて、悲しそうな絵で、びっくりされたかもしれないが、この時から、本の世界と絵の世界が、少しずつ繋がっていたのかもしれない。
そして、普通部の労作展でも、三年間ずっと本の世界と絵の世界を描くことになった。一年目は、試行錯誤の連続で、ある一部の場面は描けたかもしれないが、全体像は描き切れず思い通りにいかないまま、道半ばで終了した。
二年目は、辞書ほどもある分厚い本を選んでしまった。読むだけでも大変で、何度も挫折しながら、たくさん線を引いたり、付箋を貼ったりしながらキーワードを探した。完全な理解とは言えなかったが、この時に、具体的な形から少しずつ離れて、もっと抽象的に本質だけを抜き出して、画面に重ねていく手法を見つけた。
そして三年目。夏休みに友達と映画「国宝」を観た。これを描きたいと思った。題名は「血」と「芸」だとすぐに決めた。原作を読みながら、映画のシーンが常に思い浮かんだ。華やかな舞台で舞う二人の姿と、その裏での血をめぐる葛藤、愛憎、友情を描くことは、二人の生き様そのものを描くことだった。二人の鼓動が聞こえるような華やかな舞台に、死や血の負の部分を重ねていくと、対照的と思える二人が、初めから一対のように思えてきたのが不思議だった。
この三年間、ただ本を読んだだけでは感じられなかったことが、絵にしようとすることで、自分でも思っても見なかった表現が出来ることを知った。
そして抽象的な絵にも伝えたい意味があり、それを読み取る楽しさ、難しさもあると思った。三年間の集大成に、特別展示をして頂いたことはとても励みになり、大変なことも多かったけれど、またこれからも読むこと、描くことを続けていきたいと思った。
