社会科
自分探しの旅
3年K.S.君
教室に並ぶと、ずらりと並ぶ大量の作品たち。豪華な額縁に入っている素晴らしい絵や、プログラミングで作った楽しいゲーム、そして、ものすごい研究量の論文。私が普通部に入学を決めたのは、この瞬間だった。「文化祭」という名のみんなが憧れる青春イベントがなくなったとしても、「普通部に入学したら自分もこんな素晴らしい作品を作れるのかな」と思ったからである。
普通部に入学した中学一年生の春、自分が何の作品を作りたいのか、私は迷った。まず、私は文章を書くのが得意という認識があった。そのため、私は自分の得意な分野を生かした作品制作に取り掛かることにした。また、労作展は夏休みを丸ごと使った大研究であるから、自分の好きなことをテーマにしたいと思った。そのようにして決めた一年次のテーマは、ポケモン、特にポケモンカードの市場調査である。当時日本で開催されていた世界大会に足を運んだり、カードの価格を調べたり。そして、一年次の労作展が終了した。その時に残った大きな課題は、「分量」である。圧倒的に研究量が足りず、論文のボリュームと、信ぴょう性にかけるものになってしまった。しかし、自分の好きなテーマで意欲的に研究ができ、「とても楽しかった」と思える研究だった。
二年次は、去年の研究が楽しかったこと、そして分量を増やしたいことを意識してテーマの設定に当たった。毎日研究が出来て、価格の調査や分析ができるテーマを考えた結果、テーマを社会の動向と日経平均株価の探求とした。六月から日経平均株価と日経新聞のニュースをほとんど毎日確認し、次の日の日経平均株価の予測を行った。この研究は、テーマの設定と私の努力によって満足のいくような分量となった。そして、次の日の株価の予測がどんどん当たるようになっていき、去年と同じように「楽しかったな」と思える研究となった。また、結果的に「賞」をいただくこともできた。ただ、一番課題と感じたのは、「計画性」である。研究を計画通りに進められなかった日の分の研究がたまってしまい、最後まで研究をやりきることはできず、納得がいかなかった。達成感は、あまりなかった。
そして、今年。去年、一昨年と二つの面で市場調査をしてきた。そして人生最後の労作展ということで、それらの研究の集大成にしたいという気持ちが強かった。前回の労作展では、次の日の株価を予測していて、短期投資に焦点を置いていたが、今回は、長期的な資産形成と運用の学習と実践をテーマとした。長期投資では、チャートだけではなく会社の内部も見ないといけない。そこで、有価証券報告書という決算書類を読みたいと考えた。まず、知識をつけるために行ったのは簿記検定三級の学習である。学習の中で、日常の事柄やニュースを一章ごとに結び付けて日誌形式で文章を書き、理解度を深めた。一回不合格になり、悔しい思いをしたものの、その後すぐに自分の苦手分野を中心に対策し、合格点を大幅に上回ることができた。また、資産運用検定三級の学習もした。簿記検定と同じように日誌も進めながら学習し、一発で合格することができた。そして、そこで学んだ知識を中心に、四社のチャート分析、その中から三社の有価証券報告書の分析を行った。知識量が不足していて読めないところも多々あったが、八つの観点から分析し、一番投資したい会社を決定し、実際に株を買った。また、将来の資産運用像をより深くイメージするため、社会人として働いている司法書士と国税専門官の方へのインタビューも行った。どちらの方も父親の旧友であり、友人を持つことの大切さと、父親への感謝を感じた。インタビューの内容を真摯に受け止めてくださり、回答していただけて、将来の資産運用の像のイメージが深まった。そして、最後に日誌、論文の修正を行った。計十万字を超える作品を完成させることができ、その瞬間は様々な感情にあふれた。達成感、開放感、高揚感。胸を張れるような作品を作ることができた。結果的には「賞」をいただくこともできた。もちろん、楽しい研究だった。
私にとって、三年間の労作展は「自分探しの旅」だった。自分の得意なこと、好きなことから何かを作り上げ、反省し、課題を見つける。そして新たなことに興味を持っていく。当日は、三年間自分が手を付けることのなかった社会以外の教科の素晴らしい作品にも惹かれる。あんな豪華な作品は自分には作ることはできない、と思い、尊敬して、他者に興味を持つ。三年前の自分は、ポケモンから将来の資産形成にたどり着くなんて、思ってもいなかっただろう。
そして、今日まで行ってきた探求と、私の興味は、これからも続いていく。私は今日も、旅をする。
