2023年度 目路はるか教室

2023年度 目路はるか教室普通部百二十五年九州講座

「医学の歴史と我々の社会」~大切なことは自分で考えること~

飯塚病院 腎臓内科 部長

藤﨑 毅一郎 氏(フジサキ キイチロウ)

 医学の歴史を紐解きますと古代ギリシャ時代の「医学の父」と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460年頃~紀元前370年頃)までさかのぼります。この頃の病気に対する原因の理解は「「人間の身体を構成する体液の調和が崩れることで病気になる」とする体液病理説をヒポクラテスが唱えていました。今では病気の原因は、様々な医科学で解明していますが、当時はほぼ病気を解明出来ない状態でした。そういった状況が18世紀頃まで続きました。日本では中国・朝鮮より漢方医学を中心とした医学が伝わっていましたが、病気の原因を解明するには至っておりませんでした。日本最古の医学部とされるのは、文武天皇が大宝律令の中で定めた医療制度の「医疾令(いしつりょう)」です。13-16歳の約40名の医学生が選抜され、最長9年の修学期間でした。1700年以降に欧州との交流が増えてくると医学に関しても欧州の医学が取り入られるようになりました。1774年にオランダで翻訳・出版された解剖学書『ターヘル・アナトミア』の翻訳版が「解体新書」として出版されました。著者は前野良沢(中津藩々医、翻訳係)と杉田玄白(清書係)でした。この解剖学書は大変精密に記載されており、その後の日本の医療の発展に大きく貢献しました。明治維新以降は主にドイツ医学を取り入れ、帝国大学医学部を設立し医師養成を進めました。1950年以降は各県に国公立大学医学部を設立し、全国への医師の拡充を図りました。現在、日本の医療において安定した病院運営に必要なものは、電力、水道、薬剤、人材、経済力、平和・安全です。最近では、ウクライナやパレスチナ・ガザ地区の戦争で人々の社会生活が崩壊している映像を我々は日々目にしています。これらの状況下では、社会インフラも崩壊しており、その地域の人々は十分な医療を受けることが出来ません。幸い現在の日本は、種々の問題があるにせよ平和と安全が保たれており、医療も国民皆保険制度のもとで受けることが出来ています。この医療を安定供給するためには、先程述べた社会的な生活基盤や教育制度・人材が必要です。これに十分な経済力が備わって医療が推進します。こういった多くの土台となる社会構造の上に我々の医療は成り立っています。そして、この医療の方向性を決めるのが、大きく言えば政治となります。少子高齢化と言われて久しい日本でありますが、今後もそれは続きます。「我々国民一人一人が今後どういった医療を望むのか」、この問いは未来を生きていく我々や将来大人となる皆さんが自分の問題として考えることが必要です。この問いに正しい唯一の解答はありません。医療に限ったことではありませんが、様々な状況下で一人一人が「自分で考える」こと、そして議論を重ねることが大切です。これからの医療と社会を作っていくのは、次世代で活躍する皆さんです。今後の皆さんの成長と活躍を期待しております。

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