2023年度 目路はるか教室

2Fコース

「コンサルタントの秘密」を明かして思うこと

株式会社 企(くわだて)代表取締役/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授

黒坂 達也 氏 (クロサカ タツヤ)

 「私はコンサルタントです。コンサルタントはビジネスの当事者ではありません…」こんな少しひねくれた書き出しの講師カードを見て、果たしてどんな普通部生が集まってくれるのか。当日の朝、日吉へ向かう東横線に揺られながら、そんなことを考えていました。
 あるいは30年以上前の自分の姿を、現役の普通部生に探そうとしていたのかもしれません。少しひねくれていた当時の私だと、卒業して30年以上経った「おじさん」の話なんぞ、話半分に聞いておけばいいのではないかと、考えていたような気もします。しかし当日授業に集まった普通部生たちは、真剣なまなざしで私の話に耳を傾けてくれました。
 もちろん、コンサルタントとしての経験や日々の仕事で感じていることを、守秘義務ギリギリのリアルなエピソードを交えたので、登場する固有名詞やシチュエーションに単純な驚きを覚えた普通部生もいるでしょう。しかしそれ以上に、コンサルタントの仕事を勉強、部活、趣味といった自らの日常に置き換えながら、何か使えないかと、貪欲に話を聞いてくれたように、私自身も感じました。
 私の話にどれほどの意味があったのかは、私にはもちろん分かりませんし、普通部生たちの活発な日常の中で、その記憶はいずれ薄れていくでしょう。しかし、自分たちが普通部で学び、遊び、語らう意味を、卒業してから振り返るのではなく、現役の立場で考えるきっかけになったとしたら、記憶に残る以上に、私の授業は失敗ではなかったと思います。なぜならばそれこそがコンサルタントの仕事の目的である「人を動かし、変化を生み出す」ことだからです。
 普通部は昔も今も、とても素晴らしい学校です。そしてそれは普通部生の素晴らしさによって作られています。難解だったであろう私の授業を正面から受け止めてくれた普通部生たちに感謝しつつ、彼らの純粋な思考と接し、30年前の自分に「もうちょっと素直になれよ」と話しかけたくなりました。

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