労作展

2020年度 受賞作品

音楽科

夏の風物詩

3年S.N.君

 労作展は僕が、 普通部を受験するきっかけとなった学校行事である。 初めて訪れた際、 その作品のレベルの高さに圧倒されながらも自分もここに作品を展示したいと思った。
 今年で三年目となる労作展だが、 有り難いことに過去二年間 「賞」 を頂けた僕にとって最後にかける気持ちは大きなものだった。 幼い頃からピアノに親しんできた僕は、 労作展に出展する際は音楽科で作品提出をしようと決めていた。
 一・二年では僕が最も好きな作曲家ショパンの作品を、 楽曲として分析および研究をした。 作曲家について調べて、 時代背景や作品に込められた思い、 楽曲アナリーゼに加えて、 奏法やピアノという楽器の進化や構造について学んだ。 楽器学資料館へ足を運び、 ショパンが使用していた当時のピアノ 「プレイエル」 と 「エラール」 に触れる貴重な機会も得られた。 音色やアクションの違いから楽器の進化には作曲家と制作者の連携により改良が施されていて、 その進化には気の遠くなるような長い歳月が費やされており、 現代のピアノには時代を越えて多くの作曲家や技術者の想いが詰まっていることを知った。 演奏の際、 作曲家の作った作品の魅力を最大限に表現するためには、 楽曲を分析し、 作曲家の心情に寄り添うと共に、 楽器が持つ特性や響きなどを考慮しながら演奏すること、 すなわち楽器の扱い方や奏法が大切であることを学んだ。
 三年目となる今年度はシューマン作曲 「献呈」 (リスト編曲) という曲を選曲した。 ショパンとシューマンは同年代のロマン派に活躍した作曲家だが、 この二人は性格も作品の内容も全く異なると言われている。 ショパンのピアノ作品の特徴はなんといっても甘やかな抒情性にある。 一方、 文学少年であったシューマンはピアノ作品にも文学的な雰囲気を盛り込み、 標題のある小品を多く書いている。 更にロマン派のピアノ音楽の歴史を語る上で、 もう一人、 大きな役割を果たした作曲家、 リストを取り上げなければならない。 「献呈」 はロベルト・シューマンが作曲した 「ミルテの花」 という楽曲集の中の、 「widmung」 という曲を、 フランツ・リストがピアノ曲へと編曲したもので、 哀愁がありながらも温かさや明るさを持つこの曲は僕にとって子守唄の様な存在であり、 いつか弾いてみたいと思っていた。 選曲している時、 集大成としてこの曲を楽曲にしようと決めた。 シューマンの和声分析は苦戦したが、 原曲は歌曲なので歌詞が付いていて、 歌詞と和声が深く結びついている事を今回の研究で知った。 例えば、 「schmerz 苦しみ」 に当てられた短三和音 (準固有和音)、 「Grab 墓」 に当てられた減七和音などがあげられる。 複雑かつ綺麗な響きが特徴的なシューマンの和声だが、 文献を調べて楽曲をアナリーゼすることで曲の構造や背景をつかむことができる。 作曲家の意図を理解して演奏する事こそが曲を最も上手く演奏する近道である。 シューマンの作品には細部に渡り沢山の作曲技法や配慮が施されていて、 改めて音楽の奥深さを学んだ。
 ピアノの練習というのはとてもハードなもので、 技術的な事だと正確なテンポ感や美しい音色など求めるテクニックは多岐にわたる。 その上、 先ほどあげたような楽曲分析から裏付けられる音楽性も表現しなければならないのだ。 作品を理解して細やかなニュアンスを効かせて詩情を描き出すには、 膨大な練習に加えて楽曲分析すなわちアナリーゼが必要であり、 多面的・多画的な学びが大切である。
 労作展に向き合った三年間の暑い、 いや熱い夏。 労作展を通じて作品に向き合い、 自分と対峙し、 最大限の努力をするということを学んだ。
 今年度はコロナ禍で例年とは全く違う労作展ではあったが、 いつもと同様に心身ともに成長出来たという自負がある。 三年間に亘りこの 「学びの場」 を与えてくれた普通部に感謝するとともに、 今後も成長していきたい。