労作展

2020年度 受賞作品

技術家庭科

“僕の”チェロ

2年A.Y.君

 労作展でチェロを作る。 そんな突拍子も無い事を考えついてしまったのが、 そもそもの間違いだった。
 僕は三才からチェロを習っている。 今までも何度かダンボールでチェロのようなものを作ったことはあった。 そして去年の九月。 労作展で、 本物 のチェンバロを見た。 まさか…。 あまりにもショッキングだったのでしばらく信じられなかった。 家に帰る途中に僕はひらめいた。
「なんだ、 ダンボールじゃなくて本物のチェロを作ればいいじゃん。」
労作展として取り組むならしっかりと時間をかけて作ることができるだろう、 という訳である。
 しかし、 まず作らせてくれる工房を探さなければいけない。 僕がいつも弾いているチェロの修理をしてくれている職人さんに、 チェロを作りたいと相談したが、 簡単にうなずいてはくれなかった。 しかしどうしても作りたいと思ってしまった僕は頑固に、 後日もう一回訪ねた。 すると彼は、 僕の強い意志を汲み取ってくれ、 決心したように
「毎日二時間作業して、 週に一回見せに来て、 二年後にホワイトヴァイオリンであればできる。 チェロはその後。」
ホワイトヴァイオリンとは、 一〜二ヶ月ほどかかるニス塗りをしていない状態のヴァイオリンである。 しかし、 僕はヴァイオリンではなくチェロを作りたい。 そして十ヶ月後に。
 今度は、 鎌倉にある弦楽器工房を訪ねた。 すると、 その工房主、 斎藤先生は 「半年かあ、 行けるかなあ」 と言いながらも承諾してくれたのだ。 そう、 半年。 作らせてくれる工房を見つけた頃には残りわずか半年となっていた。 斎藤先生が心配したのも無理はない。 チェロを作るには通常でも一〜二年はかかるのだ。 しかも、 中学生は初めてだと言う。
 さて、 ここからが本題だ。 まず、 ストラディバリという、 一七〇〇年代に活躍した弦楽器史上最高の技術を持つ名工の楽器を合板の型に写し、 それにフィットするように、 側板の厚みを整え、 熱で曲げる。 急カーブの部分は難しく三回も折ってしまった。 そして最も音色を左右する、 表板・裏板の作業に入る。 裏板はカエデの一枚板で、 厚さが七〇ミリもあった。 これを百種類以上あるカンナを駆使して七ミリまで薄くして滑らかな曲面にする。 しかし、 毎日ごくわずかしか削れないので、 正直辛かった。 そんな時は、
「一からつくることに意味があるんだ。 このチェロはどんな音になるかな。」
などと考えて乗り越えてきた。 最初から最後まで、 全てを自分の手で、 妥協せずにつくったことを誇りたかった。 そして夢には、 自分で作ったチェロを弾いている場面がしょっちゅうでてきた。
 九月となった。 表板・側板・裏板を組み立て、 どんどん形が見えてくる。 仕上げをして磨くと木目が際立って見えてくる。 みるみる出来てきてとても楽しかった。 が、 工房で二十一時過ぎまで作業することもあり、 かなり大変だった。
 そして、 労作展当日。 僕はこのチェロを一から作った、 ということを信じてもらえるか自信がなかった。 所々失敗はあるが、 とても精巧で緻密に作られていたからである (笑)。 賞のために作った訳ではないが、 やはり賞は欲しかった。 そんな中、 制作日誌が完成までの数々の苦労を物語ってくれた。 百二十ページ書いた甲斐があった。
 さて、 来年の労作展はこのチェロを弾こうと思う。 僕の作ったチェロを弾くと、 なぜか僕は裏板を削っている時のことを思い出す。 遠くから眺めると、 僕そのものにも見える。 こんな、 僕そのもののようなチェロは来年の労作展でどんな音を出してくれるのだろうか。